濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
HIROYAの弟、大雅が18歳で王者に。
Krushのリングが見せる残酷な輝き。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2014/08/29 11:00
3-0の判定で勝利し、兄のHIROYAに肩車され喜ぶ大雅。無敗での王座獲得にも「こっからがスタート」とツイートしている。
試合で大雅が見せたのは、可能性だけではなかった。
だが試合で大雅が見せたのは、可能性だけではなかった。序盤からパンチの連打で前進してくる王者の動きをしっかりと見切ってカウンターで反撃。顔面への前蹴りや飛びヒザといった奇襲も繰り出したのだ。
瀧谷は攻撃に力をこめればこめるほど空転させられ、接近戦で転倒することもしばしば。相手をすかし、いなしながらペースを掴むのが「自分の得意なスタイルなんです」だと大雅は言う。ある関係者は「大雅くんのほうが大人びた試合をしてましたね。18歳には思えませんよ……」と感嘆の声をもらしていた。
長くトップ戦線で闘い、ベルトを他の選手に譲ったことがない瀧谷には、チャンピオンとしての、そしてKrushファイターとしての強烈な自負があった。真っ向勝負で相手を倒してこその格闘技、観客を沸かせてこそのKrushだと自分に言い聞かせ、それを実行してきたのだ。まして今回は地元である愛知での防衛戦。大応援団を前に“ただ勝てばいい”という試合はできなかったはずだ。
王者の気持ちごと、いなしてみせる闘いぶり。
そんな王者の気持ちごと、大雅はいなしてみせたのである。ただし、決定的なポイントになったのは2ラウンドのダウン。瀧谷が仕掛けた打ち合いに応じ、左フックをヒットさせてのものだった。Krushらしくない闘いで主導権を握った大雅だが、やはり決め手になったのはKrushらしい打ち合いだった。
判定は3-0。試合が終わった瞬間、大雅陣営は勝利を確信して拳を上げた。その中には兄・HIROYAの姿も。65kg王者だったHIROYAだが、7月の初防衛戦で“抜擢型挑戦者”の寺崎直樹に大金星を許し、ベルトを失っている。大雅にとっては、その無念も背負ってのタイトル挑戦だったはずだ。試合後には、チャンピオンになることが亡くなった友人との約束だったことも明かした。大人びた闘いには、それだけの理由があったのだ。同時に「3年生、最後の夏にいろんなものを我慢して練習してきたかいがありました。明日からは友だちと遊びまくりたい」という高校生らしいコメントも。高校生のKrush王者が誕生したのは史上初のことだ。