濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ケージの中であがき続ける37歳。
“闘うフリーター”所英男の最後の夢。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2014/07/17 10:30
所英男を下したビクター・ヘンリーはジョシュ・バーネットの愛弟子。セコンドにジョシュ自らがついて、番狂わせを演出した。
決して『GRANDSLAM』はゴールではない。
『GRANDSLAM』旗揚げにあたって、勝村は「この舞台を選手のいいように使ってほしい」と語っている。目指すべき場所はあくまでアメリカ。ここで勝つことがゴールではないし、むしろ通過点にしてほしいという考え方だ。本戦でも期待の新鋭に加え、ベテラン選手たちの試合も多く組まれた。
第2試合に登場した井口摂は、40歳にして6年ぶりの復帰。UFCで活躍してきたナム・ファンが契約解除後、初の試合を『GRANDSLAM』で行なったこともサプライズだった。セミファイナルの清水俊一vs.飛猿☆No.2は生き残りをかけたシビアな一戦。清水はUFCを1戦のみでリリースされ、飛猿は修斗の世界タイトルマッチで敗れている。ここで勝つか負けるか、前進と後退の幅が大きい闘いだ。
勝村いわく「ウチは踏み台にもなるし、受け皿にもなります」。若い選手がステップアップする場所であると同時に、ベテラン選手が再起を期す場所にもなるという意味だ。
“闘うフリーター”所英男が最後に掲げた目標とは。
今大会で最も再起が期待されたのは、メインイベントに出場した所英男だろう。かつて“闘うフリーター”として脚光を浴びた所も今年37歳。ジムを構え、多くの会員を抱える立場でもある。
そんな所が、選手として最後の目標に掲げたのがUFC出場だった。ケージでの実績をあげるべく『VTJ』に出場し、佐藤ルミナ、テイラー・マコーストンに連勝。しかし、3連勝をかけたウィル・カンプザーノ戦で微妙なスプリット判定で敗れてしまう。目標を遮られ、「気持ちの整理がつかなかった」という所は、練習を続けながらも体重が14kgも増えたという。
「気持ちと身体ってつながってるんだなって思いました。この歳になると、止まるってことは衰えるってことなんですね」
そういう状態から、気持ちを切り替えての再起戦。しかも新大会のメインであり、プロデューサーの勝村は所のトレーナーでもある。所の表現を使うなら“勝村再生工場”。ラストスパートの第一歩として、最高にドラマチックなシチュエーションだ。