ブラジルW杯通信BACK NUMBER
時計の針を4年間戻してはいけない!
大久保嘉人が感じた“苛立ち”の理由。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/06/18 10:40
昨季のJリーグ得点王は、直前のザンビア戦でも劇的な決勝ゴールを決め、W杯に向け手応えは十分だった。前線の組合せが試行錯誤される中で、大久保嘉人は2戦目以降どのような起用をされるのだろうか。
一度呼ばれるも、実際の出場は2点目を失ってから。
後半に入ると、日本の運動量が落ちはじめる。後半15分を過ぎた頃、大久保にザッケローニ監督から出場の声がかけられた。だが、指揮官にも迷いがあったのか一度ベンチに戻され、結局、ピッチに入ったのは2点目を失ったあとの後半22分だった。
「同点に追い付かれてからは、やばいなって思って見ていた。コスタリカも1点取った勢いでウルグアイを逆転したじゃない。その時間帯は相手のチャンスばっかりだったんでね。まあ監督も状況を見たかったと思うけど……。俺は、1-1の状態で出ればなんとかなると思っていた。プレスもゆるかったし、前に出てくると思っていたんで、これはいけるなって思っていた。
でも2点目を失ってからは、ちょっと気落ちした感があったね。俺はなんとか同点に追い付こうと思ったけど、相手はブロックを作っていたし、俺らも中盤でのミスが多かったんで、なかなかうまく攻撃ができなかった」
「なんや、それって。パワープレーなんてやったことない」
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大久保は最初は1トップに入ったが、後半29分には左サイドに移った。本田を1トップにして香川をトップ下に変更したのだ。しかしフォーメーションを変更しても、テストマッチでは通っていた質の高いパスがまったく出て来なかった。シュートは後半35分に放った1本だけ。左サイドで孤立し、ラスト5分は、それまで練習さえしたことがなかったパワープレーに転じた。
「なんや、それって思った。パワープレーなんて、やったことないからね。そもそも俺が入った時から4年前の戦い方と一緒だったんで似ているなあって思いながらやっていた。俺がボールを持っても相手DFばっかりで誰もおらんかったし、シュートを打っていい場面でもパスして、ボールを奪われたり……。今までやってきたのはいったい何だったんだって思った」
大久保の胸中に去来したのは、また4年前の守備的なサッカーに戻るのではという暗澹たる気持ちだった。
「4年前と同じサッカーして負けちゃ意味ない。テストマッチでやってきたサッカーを貫いて、それで負けるならしゃーない。そのくらいの気持ちでやるしかないでしょ」
大久保は、今の日本代表のサッカーこそが未来の日本サッカーのベースになるべきだと思っている。今をその礎とするには4年前のサッカーに針を戻すのではなく、今のサッカーを貫くことだ。外から代表を見てきた大久保だからこそ、その重要性を理解している。勝利しかないギリシャ戦、果たして大久保の声はチームメイトに響くのだろうか。