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アンジャッシュ渡部建が考える、
統一球、ルーキー、阪神の戦いぶり。
text by
渡部建Ken Watabe
photograph byNanae Suzuki
posted2014/05/13 10:30
松井裕樹は一軍デビューで結果が出ず、二軍で調整を続けるが、渡部氏は今なお大きく期待を寄せる。
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【第4打席】「祖母のファインプレーで更生。広島・九里亜蓮の成功物語」
~私的家族愛共感~
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今年のルーキーで注目している選手はたくさんいますが、特に応援したい選手がいます。
広島の九里亜蓮選手です。
開幕第2戦で先発を任され、ルーキー一番乗りでプロ初勝利をマークしたかと思えば、4月は中継ぎでも登板するなどフル回転し2勝。26日の巨人戦では6回7失点と打ち込まれてしまいましたが、今後、必ず結果を残してくれるはずです。
九里選手を応援したい理由はそれだけじゃありません。逆境から這い上がってきたハングリー精神。そして、家族愛を一身に背負って投げているところなんかもすごく魅力的なんです。
アマチュア時代から九里選手を知る方であればご存知かもしれませんが、彼はアトランタ・ブレーブス傘下の3Aでプレー経験があるアメリカ人を父に持つハーフです。残念なことに、九里選手が小学6年生の時に両親が離婚。家族を養っていくために母親が朝から晩まで働くようになったことで、おばあさんと暮らすことになるなど、恵まれた家庭環境ではありませんでした。
不良グループから救ってくれた、おばあちゃんの行動。
さらにさらに、若気の至りというか、中学生になった九里選手は、腕っぷしの強さが見込まれて不良グループと遊ぶようになってしまい……。髪を金色に染め、「特攻隊長」なんかに任命されたりと、それはもう、野球なんて二の次、三の次といった日々が続いたそうです。
それでも、九里選手はやっぱり野球が大好きだった。遊びも楽しいけど、野球を続けたい。でも、不良グループから抜ければ仲間たちから絶対に報復される――。そのような葛藤から救ってくれたのが、おばあさんだったんです。
教育委員会から市議会議員とあらゆる伝手を辿って、米子市の自宅から一番遠い中学校へ転校させ、不良グループから孫を守るために毎日、送り迎えまでしたそうです。そして、高校は鳥取県内の学校ではなく岡山県の岡山理大附属に越境入学させるわけですが、今の九里選手があるのもおばあさんの数々のファインプレーがあってこそ! そう感じてなりません。
亜細亜大学に進んだ九里選手は、4年生の東都大学リーグで春秋連続MVPに輝き、通算でも19勝と家族の愛情に応える活躍をしました。そして、ドラフト2位で広島に入団し、今、ルーキーながら投手陣を支える存在となっています。
広島OBの山本浩二さんは、九里選手をこのように評価していました。
「九里はピッチングもいいけど、なんといってもハートが強いね」
家族を背負っているから負けられない。だから、マウンド上では闘志をむき出しにして投げる。人間味あふれる九里選手。今の勢いを持続して、新人王などのタイトルを獲得するくらい大暴れしてもらいたいです!