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なぜ獲得直後の細貝がレンタル移籍?
レバークーゼンの強化戦略と野望。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/01/05 10:30
U-15時代から代表に選出され続けている細貝。ザック・ジャパンとして最初の正念場となるアジアカップでも最終メンバーに選出されている
経験の足りない若手はレンタル移籍で武者修行の旅へ。
また、彼はレンタル移籍を積極的に活用することでも知られている。
今ではチームに欠かせない存在になったラインナルツは、2シーズン前にニュルンベルクへとレンタル移籍を命じられ、そこで実戦の経験を積んだことで大きく成長した。2シーズン前にバイエルンからレンタルで獲得したクロースは、昨季前半戦の躍進の原動力となっていた。
フェラーの頭の中にあるのは、ブンデスリーガの下位にいるチームや2部で上位にいるチームと良好な関係を築くこと。その関係性を活かして、獲得したばかりの若い選手が武者修行に赴く環境を作っている。例えば、ニュルンベルクやアウグスブルクとはすでに友好的な関係を築いている。今季はニュルンベルクへレンタル移籍を命じられ、前半戦すべての試合に出場したヘゲラーは過去2シーズン、アウグスブルクへレンタル移籍に出され、経験を積んでいた。
移籍直後の細貝を1年半もレンタル移籍させるのは将来への布石。
12月23日に発表された細貝萌の移籍も、フェラーSDの得意とするパターンだった。移籍金なしで浦和レッズから獲得して2013年6月末までの契約を結ぶと、2012年6月末まではアウグスブルクへレンタル移籍させることを決めたのだ。
先に挙げたビダルに加えて、キャプテンのロルフェス、そしてバラックと、レバークーゼンの守備的MFには実力のある選手がそろっている。細貝に限らず、現時点で新加入選手がこのポジションでレギュラーをつかむのは難しいだろう。細貝はサイドバックでもプレーできるが、左サイドには安定感のあるチェコ代表のカドレツが、右サイドにはクロスの精度に定評があり、ドイツの年代別代表を経験してきているシュバーブがいる。さらに、左右両サイドを遜色なくこなし、エジル(現レアル・マドリー)らとともにU-21欧州選手権を制したカストロも控えている。だからこそ、細貝の獲得と同時に1年半にわたる長期のレンタル移籍を決めたのだ。
高年俸のブラジル人選手よりも「若くて優秀な」日本人を。
もっとも、細貝に目を付けたのは、将来的に強化方針を変更しようという意図の表れである。フェラーSDはこんな風に嘆いている。
「ブラジル人選手の市場価値はさらに高くなってしまうだろう」
ブラジル人選手を発掘し、育ててきた歴史がレバークーゼンにはある。日本でも馴染みのあるフランサやポンテ、世界に目を向ければルシオ、ゼ・ロベルト、エメルソンなど、レバークーゼンでブレイクしたブラジル人選手は多い。
「多くのブラジル人にとって、このクラブでプレーすることが夢なんだ!」と語った選手もいた。
近年、ブラジルでプレーする選手たちの市場価値が以前に比べて上がってきている。そこで、フェラーSDはアジアを重要なマーケットに位置づけようとしているのだ。21歳、35万ユーロという移籍金でやってきた香川の活躍はすでにドイツ中で知れ渡っており、先日はケルンのポドルスキーがフロントを批判する際に、こんな風な表現を用いて話題になった。
「なんでうちのクラブは、香川のような若くて優秀な選手を獲得してくれないんだ!」