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「体操はやはり美しくないといけない」
4連覇の内村航平を突き動かすもの。 

text by

矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byEnrico Calderoni/AFLO

posted2013/10/04 12:10

「体操はやはり美しくないといけない」4連覇の内村航平を突き動かすもの。<Number Web> photograph by Enrico Calderoni/AFLO

期待通り世界王者の戦いを見せ、期待通り金メダルを手にした内村航平。絶対王者の覇権は、しばらく揺るぎそうにない。

技の難度ではなく「美しい体操」にこだわった。

 最初の種目であるゆかでは、同じ組の2人の中国選手が相次いでラインオーバーのミスをするのを横目に、5回の着地をほぼミスなくまとめ、15.558の高得点でスタート。2種目目のあん馬は完璧に近いできばえで15.133。3種目目のつり輪では着地で両足が半歩ほど流れ、小首をかしげたが、それでも15.100を出した。

 4種目目の跳馬で15.333、5種目目の平行棒では15.333。独走状態で最後まで突っ走り、その先に金メダルがあった。

「世界的には(難度を示す)Dスコアを上げる傾向になっているが、体操はやはり美しくないといけない。そこをしっかりしないと、いくらDスコアを上げても評価されない。美しい体操が評価されるのだということが改めて分かった大会だった」

 自らの代名詞である「美しい体操」に対する、誇らしげな自己評価だった。

「普通にやれば個人総合は日本が一番強いと思っている」

 2位には内村の背中を追い続けてきた加藤が入った。

 世界選手権で日本人がワンツーを飾るのは富田洋之(現FIG技術委員)と水鳥寿思(現日本体操協会男子強化本部長)が金銀に輝いた'05年のメルボルン大会以来だ。

 内村は、「他の選手の演技や点数を見ていなかったので、凌平が2位と知ったのは最後だった」と振り返りながら、「普通にやれば個人総合は日本が一番強いと思っている。ワンツーは当然」と言う。後輩たちを背中で引っ張ってきたとの自負がにじみ出ていた。

 表彰式の最中は、軽いドヤ顔を浮かべながらも、反省ばかりが頭の中を渦巻いていたという。

「最後の鉄棒はもう少ししっかり出来たのではないか。跳馬も予選と比べてそんなに良くなかった。良くなかったところを挙げるときりがない」

 脳裏をよぎっていたのは、もっと完璧な演技、もっと美しい演技をしたかったという思い。飽くなき向上心があるからこそ湧き上がる悔しさだったのだ。

 水鳥男子強化本部長は「世界選手権で3連覇し、ロンドン五輪で金メダルを獲った翌年である今年は、彼にしかわからない難しさがあったはず。それでも金メダルを獲るにはどうしたら良いのかを自分で考え、体現してくれた。負ける気がしなかった」と驚嘆する。

 '16年リオデジャネイロ五輪、'20年東京五輪。内村が自らを満足させるための舞台は、まだまだたくさんある。絶対王者のパフォーマンスは、世界にまた新たなインパクトを与えるに十分なものだった。

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