プロ野球亭日乗BACK NUMBER
4種類のバットを使い分け!
ラミレスの職人的な道具選び。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2010/07/27 10:30
前半戦を終えての本塁打32本は、昨シーズンにラミレスが記録した31本塁打を既に上回る。'03年ヤクルト時代以来の本塁打王獲得に期待がかかる
まだ野球記者になって間もない頃の話だ。
グラウンドで取材をしていて、突然、どやしつけられたことがあった。
「オマエ、ナニをまたいでるんだよ!」
あるベテラン選手の怒号に下を向くと、そこにあったのは1本のバットだった。
「バットはなあ、武士の刀と一緒なんだよ!」
バットをひったくるように拾い上げたその選手は、こう言って「キッ」と失礼な若造記者をにらみつけたのだった。最近はこんなことを言う選手も少なくなってきてはいるが、職人が道具にこだわるように、バットにこだわりを持つ選手が多いのは言うまでもない。
長さと重さ、そして形状はそれぞれの打者のタイプによって異なる。多くの打者は自分の好みのモデルを探し出し(あるいは特注して)、そのバットを年間を通して愛用する。疲れが溜まってくる夏場には、同じモデルで重さを10グラムとか15グラムぐらい軽くする、という選手もいる。もっと細かい選手になると、何種類か重さの違うバットを用意して、体調によって、その中の一本をチョイスする。
いわば自分に合わせてバットを使い分けるわけだ。
相手投手に合わせてバットを使い分ける巨人・ラミレス。
ところが中には相手によって、バットを使い分けるという選手もいる。今季、本塁打を量産、前半戦のセ・リーグのホームランダービーでトップを走る巨人のラミちゃんことアレックス・ラミレス外野手も、そんな一人だった。
ラミレスは昨年までほぼ1つのモデルのバットを使っていた。長さ34インチ、重さは920グラムのメイプル素材のものだ。ところが今年は、それに加えてグリップを少し細くした新モデルを導入。しかもそれぞれのタイプで今までより重量を10グラム軽くしたものも作った。
合わせて4種類のバットを、相手投手によって使い分けるという芸の細かさだった。この4種類のバットをどう使い分けるのか。タイプ別に分類するとこんな違いがあるという。
重さの変化は相手投手の左右によって使い分ける。920グラムのものはサウスポー用、910グラムのものは右投手用。
グリップの太さは、変化球主体の投手用には太めを、細めのものは速球主体の投手用だ。もちろん相手投手によって、この基本用法をアレンジして分けているのだ。