南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
劣勢オランダを覚醒させたスナイデル。
ブラジル破り、見えた悲願の初優勝。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/07/03 12:00
前半はガタガタ、ところが一転、後半はフルスロットルで2得点。オランダ対ブラジルという大会屈指の好カードは、本家を上回るマリーシアぶりも見せたオレンジ軍団が、優勝候補筆頭のカナリア軍団を相手に逆転勝利を収め、1998年以来となるベスト4進出を決めた。
「ブラジル戦は優勝を目指すわれわれにとって凄い挑戦になる。だが、われわれは目標に向かって集中している」
ファンマルバイク監督以下、セレソンとの戦いに全霊を傾けて臨む意気込みだった。だが、立ち上がりは、完全に劣勢を強いられた。
DF陣は世界ランク4位とは思えないほどの乱れ様だった。
ウォーミングアップでセンターバックのマタイセンがひざを痛め、急きょ、オーイェルが先発したという背景があるにしても、ギャップだらけのDFラインは、世界ランク4位とは思えないほどの乱れ様だった。
6月19日のグループリーグ第2戦で日本と対戦した際のソリッドな守備とはかけ離れた姿に、やはりブラジルが一枚上とのムードが漂った。
とりわけ、前半10分にフェリペメロの縦パスからロビーニョが豪快なダイレクトシュートを決めて先制した後がいただけなかった。
ロビーニョに付いていたロッベンに向かって、ベンチはすぐさま「お前がしっかりマークしていないからだ」というニュアンスで叱咤したようで、ロッベンは自分を指さして「え、オレのせい? なんだよっ!」的なリアクションを取ったのだ。
しかもロッベンは、その後のCKの場面で意味不明のチョン蹴りをして、チャンスをふいにした。
悪いときのオランダは「1-1-1……」のシステムになる。
守備の崩れに続き、攻撃までチグハグでは、イヤな雰囲気になるのも無理はない。ブラジルの攻勢はなおも続き、いつ2点目、3点目を失ってもおかしくないほどだった。
長友佑都のコメントを思い出すと、日本戦でのオランダと、ブラジル戦前半のオランダとの違いが浮き彫りになる。
「オランダはスピードもあるし技術も高い。ゴール前でちょっとでもフリーでシュートを打たせると、ファンペルシもスナイデルもシュート精度が高いので、半歩の差でやられてしまう。カイトは嫌なところを突いてくるし、走ってくる。ロッベンは、スピードはもちろん、右サイドに出た時に中に入ってからの左のシュートが一番怖い」
ところがこの日前半のオランダは、気温24度という暑さの影響もあったのかもしれないが、3トップと最終ラインの距離が開き、攻撃もまったく機能していなかった。ブラジルを前にし、日本戦とは別のチームになっていたのだ。
「サッカーには4-4-2や4-3-3のシステムがあるだろ? でも、悪いときのオランダは、1-1-1……になるんだ」というオレンジサポーターの嘆き節を思い出すに十分な展開だった。