南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
劣勢オランダを覚醒させたスナイデル。
ブラジル破り、見えた悲願の初優勝。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/07/03 12:00
オランダはメンタル面で勝り、相手の自滅を誘った。
だが、今回の彼らはひと味違っていた。スナイデルが「ハーフタイムにみんなですべてを出し尽くそうと話し合った」と言うように、後半はファンボメルを中心に、泥臭い、警告すれすれとも言えるプレーを織り交ぜながら、ブラジルに立ち向かった。
その気迫が通じたのか、後半8分、スナイデルが右サイドから高く上げたクロスがフェリペメロに当たってオウン・ゴール。1-1の同点に追いついたことをきっかけに、流れを一気に手繰り寄せると、同23分には右CKからカイトが頭でそらせたボールをスナイデルが頭で合わせて勝ち越しに成功した。
ブラジルは、苛立って相手に蹴りを入れたフェリペメロが西村雄一主審にレッドカードを出され、あえなく退場となる。オランダはメンタル面の攻防でも勝り、相手の自滅を誘った。
岡崎慎司、田中マルクス闘莉王が語るスナイデルの印象。
今大会のオランダの心臓部を担うのは、司令塔のスナイデルだ。身長170cm(実際はもっと小さい印象)と小柄ながら、存在感は群を抜いている。この試合では同点弾につながるクロスを上げ、決勝点を決めた。
日本戦でも後半18分に1-0の決勝ゴールを奪っている背番号10については、岡崎慎司が端的に語っている。
いわく、「以前はサイドから起点をつくるのがオランダの形だったけど、今はスナイデルのところから中でつくってくる印象。それで最後にファンペルシやカイトが決める」
特別派手なわけでもないのに、代表チームのスタイルを変えてしまうほどの影響力の持ち主なのだ。
オランダを相手に1失点に抑えた田中マルクス闘莉王もスナイデルに対しては、「それほど決定的とは言えないあの場面で、ああいうシュートを決められるところがさすがだなと思った。しかもダイレクトで打てるなんて。技術の差は感じましたね」と脱帽していた。
不屈の魂、泥臭さ、「新しいスタイル」で悲願の頂点へ。
オランダがブラジルに勝ったのはトータルフットボールで世界をアッと言わせた1974年以来、36年ぶりのこと。南アの地で見せる、不屈の魂、泥臭さ、そしてスナイデルという存在が織りなす新しいスタイルが、ブラジルを破ったことで一気に頂点へと到達するかもしれない。
'08年8月、ファンバステン氏の後任として監督に就任したファンマルバイクは、「2年前に世界一になると言ったときは、みんなに笑われた。今夜はお祝いをするが、明日から次の試合に集中する」と言った。
悲願の初優勝は射程内に入った。