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世界中が可夢偉の離脱に「ノー!」。
F1界はスポーツからビジネスへ。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2012/12/13 10:30
鈴鹿で日本人最高位タイ記録となる3位入賞を果たした時の可夢偉。この笑顔が再びポディウムの上で見られる日は来るのか……。
「可夢偉に関して、少し述べたいと思います。
この3年間、可夢偉はドライバーとしてコース上でアグレッシブに戦ってくれただけでなく、人間としても本当に素晴らしい性格の持ち主で、最高のチームプレーヤーとして献身的に仕事をしてくれました。チーム全員が彼のことを尊敬しており、日本での表彰台は私たちにとって非常に感動的な瞬間でした。それゆえ、私たちにとって今回の判断が簡単な決断ではなかったことを理解してほしいのです。
私たちは、新たな旅立ちを行う必要があり、可夢偉と過ごす時間はシーズン終了をもって終わりを迎えることになりました。可夢偉の今後の活躍を願っています」
これはザウバーが来季の2人目のレギュラードライバーを発表した11月23日に、ザウバーのチーム代表であるモニシャ・カルテンボーンが、直後に開いた記者会見で述べた小林可夢偉についてのメッセージである。
10月下旬にザウバーが今年フォース・インディアに所属するニコ・ヒュルケンベルグを獲得したという発表があってから、可夢偉が2012年シーズン限りでザウバーを離脱するのは時間の問題となっていた。なぜなら、ザウバーにはエステバン・グティエレスというリザーブドライバーがいたからである。
世界一の大富豪が支援する、ザウバーの新たなドライバー。
グティエレスは今年、可夢偉のチームメートを務めていたセルジオ・ペレスと同様、メキシコのテルメックスから支援を受けているメキシコ人である。テルメックスを所有するカルロス・スリム・エルーは、『フォーブス』誌による長者番付で、2010年にアメリカのビル・ゲイツを抜いてから、今年まで3年連続で世界一となっている大富豪だ。資産総額は、なんと690億ドル(約5兆6000億円)。
そのエルーの長男であり、テルメックスグループのCEOを務めているカルロス・スリム・ドミットがモータースポーツに造詣が深く、「スクーデリア・テルメックス」を主宰し、メキシコ人ドライバーをサポートしているのである。もちろん、カルテンボーン代表は、テルメックスからの資金がドライバー決定の要因となったとは一切語っていない。ただ、ザウバーとスポンサーの交渉を行っているドミットは、「もしエステバンがレギュラードライバーに昇格しなければ、ザウバーとの契約は難しいものになるだろう」と、暗にスポンサー契約と引き替えにシートを得たことを臭わす発言をしている。