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阪神で「19」を背負う意味とは?
育成で再出発の元ドラ1・蕭一傑。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/12/06 11:10
昨年8月の対広島戦で先発した蕭一傑。プロ入りして一軍に上がり2度目となる登板だったが、3回1/3を投げ3失点で降板している。
「トライアウトで持っているものをすべて出しきった」
「調子のいい時ってそうだと思うんですけど、捕手のミットしかみえなかった。お客さんやスカウトの方とか、たくさんおられたんですけど、まったく目に入らなかった。それくらい、調子が良かった。トライアウトは、ダメもとみたいなところがあると聞いていましたけど、それも考えずに、自分の持っているものをすべて出すことができたと思います」
そして翌日、蕭のもとへ1本の電話が入る。
ソフトバンクからだった。育成契約の内容も含めて、その時に初めて来季の契約についての話を聞いた。
蕭は即答せず「また、折り返します」と電話を切った。
もともと蕭はトライアウトに臨む前から育成契約のことは頭になかったという。育成なら断ろうと決めていたわけでもなく、そもそも思いつきもしなかったのだ。韓国や台湾、それがダメなら藪が紹介してくれるというアメリカのトライアウトを受けようと思っていたというのだ。
ところが、ソフトバンクからの電話のあと、また携帯が鳴った。
今度は、蕭を阪神に迎え入れた時の担当スカウト、池之上格氏だった。
池之上氏の言葉に、蕭は気持ちを整理した。
藤浪晋太郎が引き継いだ背番号「19」の悔しさを糧に。
「日本でやれるチャンスがあるんだからというのが、池之上さんの言葉でした。背番号が3ケタになりますけど、ソフトバンクにやれるチャンスをもらったんで、よしやってやろうという気になりました」
蕭自身がソフトバンクに直接電話を掛け、入団の意思を伝えた。
11月27日、ソフトバンクは蕭らの入団発表を行った。囲み取材程度と思っていた会見には、TVも入っていた。その席上、蕭は「日本で野球ができるチャンスをもらい感謝しています。全ての力を出し切りたい」と意気込みを語った。
阪神の新人入団会見は、ニュースでたまたま見たという。
「藤浪が膝をついて写真撮影しているのを見て、自分も同じことをやったなと思い出しました。これが『19』の役割なのか、と思って見ていましたね。阪神で偉大な選手が付けた『19』を自分も付けさせてもらったことは本当に光栄でした。でも、その背番号で活躍できなかったことは、悔いとして残っています。ソフトバンクで、この悔しさを晴らしたい」
戦力外通告というと、最近ではまるでドラマ仕立てで語られることが多い派手なテーマだと思われている。だが、実際の本人たちにとっては、ひどくシビアで残酷な人生の分岐点なのだ。
蕭は戦力外通告を受けて、現実を知ることとなった。
中学卒業後に祖国を離れてまで日本にやってきた想いの深さがどこまでのものなのか。
ここからが、本当の意味での彼の“地力”が問われている。