オリンピックへの道BACK NUMBER
ソチ五輪を前に支援が打ち切り――。
女子ジャンプ・渡瀬あゆみ、夢の行方。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2012/11/21 10:30
渡瀬あゆみ(写真)は1984年生まれ。16歳の高梨沙羅ら若手の台頭が目立つが、リーダー格としてジャンプ女子日本代表チームをまとめている。
「遠征メンバーを辞退したらオリンピックはない」
「考えないようにしていたけれど、悩んだり不安になったり、考えざるを得ない部分はありました。(夏の大会でも)成績を残さないと周囲の方々も目を向けてくれない、というような気持ちもあったように感じますね」
これまでになかったプレッシャーであったかもしれない。
ときには気持ちが折れそうになったこともあった。
「遠征メンバーに選ばれればそれだけ自己負担は増えていく。行くたびに、『またこれくらいお金かかるんだな』とか正直考えました。だったら遠征を辞退した方がいいのかなと考えたこともありました」
だが、辞退することなく、やりくりして参加してきた。
「すべてのスケジュールはオリンピックにつながっていると思いますから、遠征メンバーを辞退することになったら、オリンピックは無いなと思う」
こうした危機に直面したのは、今回が最初ではない。2007年春にも、以前の所属企業との契約が終了し、ぎりぎりまで追い込まれたことがある。そのときとは受け止め方も異なると言う。
「昨年、オリンピックでの採用が決まり、夢に手が届くところでこういうことになってしまったので、今回の方が正直、悔しいというかもどかしさはあります」
長く日本代表を率いてきた指導者が、五輪を前に代わる事態にも!?
一方、渡瀬弥太郎氏自身は、日本代表のチーフコーチであるため、遠征費用は全日本スキー連盟が負担している。だが、月々の生活費は所属企業を失った以上、渡瀬あゆみ同様、自ら得なければならない。
ハローワークにも通ったという。ただ、「年に200日くらいはどこかへ行ってしまうという中で採用してもらえるところとなると……」。1年の半分以上は遠征という競技生活ゆえに、一般的な形で勤務して収入を得るのは困難だ。
仮に、このまま支援先がみつからなければどうなるのか。渡瀬弥太郎氏は言う。
「活動を続けていくのは無理でしょうね。正直なところ、今シーズンの最後、3月まで乗り切れるかどうかというところです。その後は食べていくために何かを考えていかないと。そうなると、ソチ五輪のことは、次の話になるのかもしれません」
渡瀬弥太郎氏は、'90年代後半から女子ジャンプの強化に携わり、日本代表を率いてきた。女子ジャンプは、ソチ五輪ではメダルを狙える有望種目だと言われる。なのに、代表選手たちをずっと見てきた指導者が、肝心の五輪シーズンに代わらざるを得なくなるかもしれない……悪い想像をすれば、そんな状況も考えられる。