野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
古木克明最新報告(トライアウト篇)。
30代無職、野球バカの挑戦、再び。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byAkihiro Saga
posted2012/11/20 10:31
11月9日のトライアウトには大相撲の峰崎部屋の勧誘ビラも配られた。格闘家に転身したこともある古木は「その道を選ぶならチャレンジしたらいいと思う。人生経験で変わってくる」とコメントした。
古木からロマンをとったら、単なる30代無職の男である。
「楽しかったですよ。結果が出ていないのにこんなに野球が楽しかったことなんて生まれてはじめて。獲ってくれる球団はないかもしれないですけど、真剣勝負の中で、うまくなっていることが実感できた。あの打球が打てたことで自信もつきましたしね。やっぱり野球は楽しいですよ。この身体が動く限り、野球道を追い求めます!」
グラウンドを去る際の表情は、本当に明るかった。感情が表情に出る、嘘のつけない男である。きっと、古木はこの後、どんな結果になろうとも、心を折ったり持ち直したりを繰り返しながら、諦めず野球道を追い求めるのだろうと思う。
一度死んだはずの男が再び棘の道を歩み始める。それは古木に何かを見出してしまったファンにとって最も嬉しいことであるのは間違いない。だが、ロマンというフィルターを外して現実を考えてみると、正直なところ、どうするんだ、とも思う。どこにも所属しない30代無職浪人。今年も受からないとなると、プロへの復帰が叶わない可能性は高い。それでも夢を追い続け、待っているものは一発逆転か。それとも松本大洋「花男」的な世界か。
古木、大丈夫か。本当に大丈夫なのか。
トライアウトに参加せず、引退することも考えていた。
中央線某駅。この町に住み始めて1年が経った古木はトライアウトの翌日からすでにトレーニングを再開させていた。閑静な街並みに一人浮きたつ鍛え抜かれた身体が、使いどころのない状況と相俟って、やるせなさを増幅させる。
古木は今何を思っているのか。浪人で過ごしたこの1年。そして、トライアウトを終えた、これからのこと。その思いを語ってくれた。
「まず、正直な気持ちをいうと、トライアウト前までは“いつ辞めてやろうか”ということしか考えていなかったです。早く辞めたい。辞めて普通の給料が貰える仕事をしたい。本当はトライアウトにも参加しないで、引退しようかなと思っていました。出たところで結果がどういうものになるのかは……わかりきっていますから。そこに参加することが自分にとって何になるのか、晒し者になるだけじゃないかと、目的が見つけられなかった。この1年間で色々とありましたからね」
やはり……心は折れていた。しかも、これまでなかった「野球を辞める」ことを考えるまでポキポキに。当然といえば当然である。