単身ロスに渡り、スラム街のクラブチームで武者修行。

　昨年のトライアウトから今年7月31日の移籍期限までの間、水面下で古木を獲得しようとする動きが何球団かにあった。そのため、古木は独立・海外の球団に所属することはせず、浪人という形をとって待ち続けたのだが、結果的に知らないところで話が流れ、どこの球団からも正式なオファーはなし。7月31日を以て、古木の2012年のシーズンは実戦のないまま終了する。

　当然ヘコんだ。しかし、そこでも応援してくれる人たちの前では諦めない姿勢を見せ続けた。9月6日、チーム所属がないことで、11月のトライアウトまで何もすることがなくなった古木は、突如アメリカへと旅立っていく。

「ツテも何もない状態だったんですけど、日本にいても実戦はできないし、それなら向こうに行けば何かがあるんじゃないかと、アポなしでロスに行ってきました。巨人にもいたレジー・スミスのアカデミーを訪ねて『忍耐強くいれば幸運は訪れる』という言葉を貰い、ロスのスラム街にあるクラブチームで試合をやらせて貰ったりと貴重な経験ができましたね。人づてに入団テストを受けさせてくれるチームも探していたんですけど、契約期間が終わっていたり、年齢的に厳しいということもあって、結局、受けられなかった。それでもこんな野球があるんだって視野が広がったのは収穫でしたよ。（松坂）大輔にも会えましたしね。僕が野球を続けていることを喜んでくれて、励みになりましたよ」

「ふと我に返ると、何もないんですよ。お金も仕事も」

　古木がアメリカで見聞を広め、新たな道を模索している最中の9月10日、日本ではヤフートップにこんな見出しが躍った。

“元横浜古木、離婚していた”

　放っておいてもらえないスターの宿命か、この報道に少なからずハートブレイクした古木は9月半ば、結局状況が何も決まらないまま帰国。

　その後、「何もない」という圧倒的な超現実が襲い掛かる。

「絶対に諦めない、諦めたくないって思いながら、毎日毎日、試合にも出られないのに練習だけをひたすらやってきましたけど、ふと我に返ると、何もないんですよ。お金も仕事も。復帰できるかもしれないって話があっても結局何もない。アメリカに行っても状況は変わらない。最悪ですよ。“プロ野球に復帰するんだ”って自分勝手な夢を追い掛けて、周りを振り回して、家族まで失って。それでも尚、野球にこだわり続けるから、別れた娘に何の支援もしてやれないなんて……。親戚からの『娘がパパに会いたがっているよ』というメールを見て、『オレ、何やってんだろう……』って部屋で一人泣き明かしたんです。野球を続けたくないわけじゃないけど、仕事がしたい。そうすれば月に幾らかでも娘に仕送りができる。日本のプロ野球に復帰してホームランを打つなんて夢みたいなこと、諦めてしまえば楽になれる。……なのに捨てられないんです。こんな僕でもずっと応援してくれる人たちがいる。背中を押してくれる人たちの声があったから僕はここまでこれた。その人たちに対して恩返しもしていない。いや、どこで辞めれば納得してもらえるか、情けないですけど、そんなことばかり考えていました」

【次ページ】　トライアウトは叱咤激励してくれるファンのために。