プロ野球亭日乗BACK NUMBER
稲葉の一発と阿部の途中交代――。
2勝1敗でも巨人が崖っぷちな訳。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2012/10/31 11:55
次回WBCの4番と主将を山本浩二代表監督から指名され、日本代表のチームリーダーとしての期待もかかっている阿部慎之助(写真左)。
チームリーダーという言葉は、伊達にあるわけではない。
チームが苦境に陥ったときに、その力でムードを一変させる。そんな働きをしたのが日本ハムのチームリーダーである稲葉篤紀だった。
「この試合で負けたら終わってしまう」
敵地・東京ドームで連敗スタートとなった日本ハムの栗山英樹監督が、悲壮な覚悟で臨んだ第3戦。のどから手が出るほど欲しかった先取点を一振りで叩き出したのが稲葉のバットだった。
2回裏1死。巨人先発のDJホールトンの初球。真ん中からややインコース寄りに入ってきた甘いスライダー。初球の緩い球というのはなかなか手を出しづらいボールなのだが、それを逃さずに強振した打球は右翼席へと消えていった。
「(流れを)変えましたね」
お立ち台で稲葉が声を弾ませた。
「反応で打ちました。今年一番の打ち方、当たり。しっかり捕らえたから、打球の伸びが1つ、2つあった。ホームで打てたし、気持ちいいですね」
稲葉が示した“チームリーダーの仕事”とは?
東京ドームでの2試合では、結局、ホームベースを踏んだのは初戦の9回表に陽岱鋼のソロ本塁打による1度きり。あまりのホームベースの遠さに重苦しいムードが漂っていたのを、このチームリーダーが一振りで振り払った。
この一撃を合図に日本ハムは2回裏にさらに1点を追加。3回裏には制球の定まらないホールトンから2四球で作った1死一、二塁のチャンスに再び稲葉のバットが炸裂。右中間を破るタイムリー二塁打から小谷野栄一、マイカ・ホフパワーの3連打で3点を挙げてゲームの主導権を握ることになった。
ただ、振り返ってみれば、あくまでこの流れを作ったのは稲葉の一発。チームリーダーの力が、重かった日本ハム打線の歯車が動き出すきっかけを作ったのだ。
それがチームリーダーの仕事だったわけである。