プレミアリーグの時間BACK NUMBER
資産価値“世界一”となったマンU。
株式公開で資金を集める裏事情。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAP/AFLO
posted2012/08/16 10:30
オールド・トラッフォードでのマンチェスター・ダービーを視察する、アブラム(左)とブライアン(右)のグレイザー兄弟。彼らの一家はNFLのタンパベイ・バッカニアーズも所有している。
今回の株式販売はオーナー以外の全員が不利益に!?
買収当時からグレイザー家に反旗を翻しているサポーター団体『MUST (Manchester United Supporters' Trust)』は、当然、株式公開にも反対している。
当初は、「1株1議決権での販売と、全売却益が借金返済に当てられることを前提に歓迎する」としていたが、理想と現実のギャップは激しく、上場秒読みとなった8月7日には、今回の株式販売を「ファンにとっても、投資家にとっても、クラブにとっても不利益」とする声明文を出すに至った。
株式を購入するファンや投資家にとっては、予想される初値の高さと配当金支払いが一切予定されていない点に加え、二重の議決権構造が問題視される。一般購入対象のA株に付随する議決権は、グレイザー家が購入するB株の10分の1。上場後も、クラブの支配権は、これまで通りマルコムの実子6名が握り続けることになり、外部の新株主は、金は出しても口は出せない仕組みになっているのだ。
クラブにとっては、株式収入の約半分をオーナーに吸い取られてしまう点が問題だ。今回売り出される1670万株のうち、833万株分の売却益はグレイザー家の懐に入る。目論み通りに株式販売が進めば、上場により3億3000万ドル(約260億円)の資金が調達される見込みだが、クラブが抱える500億円台の負債が一気に半減するわけではない。
どんなに私利私欲をむさぼろうとグレイザー家は正統なオーナー。
だからと言って、グレイザー家を責めることはできない。
負債を抱えてのオーナー就任が、クラブにとってどれだけ迷惑なものでも、合法的な買収であったことに変わりはなく、就任後に垣間見せる私利私欲が、どれほど目に余るものだとしても、オーナーとしての合法的な権限を超えた行為ではないのだから。
そもそも、7年前のオーナー交代は、当時の主要株主たちが、米国人富豪からの高額オファーに惹かれたからに他ならない。『MUST』メンバーをはじめとする反オーナー派も、最終的には、外資参入の流れに飲み込まれてしまったのだから仕方がないと、グレイザー政権下の日常を受け入れるしかないのだろう。
この現実的なスタンスを取る代表的な人物が、誰あろう、アレックス・ファーガソン監督だ。
酸いも甘いも噛み分けてきた70歳の大ベテラン監督は、公の場で1度もグレイザー批判を口にしていないが、オーナー交代後の補強予算に不満を覚えていないはずがない。