ロンドン五輪EXPRESSBACK NUMBER
絶対に夢をあきらめない……。
寺川綾ら競泳メダリストの五輪秘話。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA
posted2012/07/31 11:50
予選タイムでは4位、準決勝で3位、そして決勝で見事銅メダルを獲得した寺川。「ロンドンまでに悔いを残したくない。先は何も考えられない」と五輪大会前に語っており、大会後の現役引退を覚悟で臨んだ本番であった。
猛烈な追い上げに、この4年間の思いがこめられているようだった。
7月30日、競泳3日目。背泳ぎ100m決勝に出場した寺川綾は、58秒83の日本新記録で銅メダルを獲得した。27歳での快挙。
日本にとってはシドニー五輪以来、12年ぶりの背泳ぎ100mでのメダル。しかも、日本競泳女子では史上最年長でのメダルとなった。
前半は5番手でターン。折り返し、残り20mあたりから追い上げ、3番目にゴール。
このレース展開は、実は作戦通りだったという。それを実行する冷静さが、メダルをもたらした。
「スパートをかけるときも、ここだ、と自分で判断できた。すごく落ち着いて、うまく練習の成果を出せたと思います」
と、寺川は振り返る。
指導にあたってきた平井伯昌コーチも、こう評価する。
「冷静にレースができました。タイムも立派です」
冷静さをもたらしたのは、この4年の歩みあればこそだ。
日本水泳界の名伯楽・平井伯昌コーチの下で再び世界へ挑戦。
寺川は、2004年のアテネ五輪に出場し、背泳ぎ200mで8位入賞の結果を残している。だが、'08年の北京五輪では、代表入りを逃した。テレビの前で、オリンピックで泳いでいる選手たちを見た。ただ、悔しかった。
「もう一度、世界で戦いたい」
それが出発点となった。
まず寺川は、平井コーチのもとに移籍する。オリンピックで結果を出している選手の指導者と考えたとき、やはり北島康介、中村礼子を教える平井氏が浮かんだのだ。
そこで、今まで知らなかった世界を知る。
レースはただ泳ぐのではなく、戦略があること、実戦につながる数々の練習メニュー……。選手とコミュニケーションをしっかり図り、練習の意図を明確に説明するコーチの指導もまた、寺川には新鮮だった。