野球クロスロードBACK NUMBER
横浜の“振り切り男”石川雄洋。
アグレッシブ過ぎる1番打者の魅力。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/05/19 12:40
近年、選手の登場曲がファンの間でも定着しているが、これがまた、本人の好みが窺えるから面白い。
なかには、歌詞の内容が実際のプレースタイルと見事に通じている選手もいる。
今シーズンなら、横浜のリードオフマンとして申し分ない活躍を見せている石川雄洋が、その象徴と言えるだろう。
“きばってこーぜ イェイ イェイ イェイ♪”
“振り切ってこーぜ ほら ブンブン♪”
“あたってこーぜ イェイ イェイ イェイ♪”
この曲とともに打席へ向かう。
「きばってこーぜ」と「あたってこーぜ」というフレーズは、人によって解釈は異なるだろうが、「振り切ってこーぜ」は、今の石川にピッタリだ。
開幕から37試合で四球がわずか5つという驚異的な数字。
この「振り切る」という姿勢こそが、躍進の大きな要因となっている。
それは数字を見ても明らかだ。まず、何と言っても四球が少ない。
5月18日時点で37試合に出場し、たったの5つ。主に1番を任されているが、セ・パ両リーグの1番打者のなかでひと桁なのは石川だけだ。積極的な打撃でチームを牽引する巨人の坂本勇人ですら11個を記録しているのだから、彼がどれだけ攻撃的な打者であるかが理解できる。
そこには、はっきりとしたわけがある。
「三振はしたくないので。三振からは何も生まれないですから」
初球からバットを振り切る「攻撃型1番」ではあるが、2ストライクになるとシャープなスイングで投手に多くの球数を投げさせる、いやらしい「職人型1番」へと鮮やかにシフトする。
ファウルで粘る打席が多いことについて、石川は「特に意識はしていない」と謙遜する。こだわることはただひとつ。「逆方向へ打つ」こと。
名門・横浜高で培った高い野球偏差値がその打撃にいきる。
春季キャンプから大きなテーマに掲げていたことで、同時にその「打ちどころ」を見定める眼も培われた。
5月4日の広島戦。先頭打者で迎えた8回裏に三塁への内野安打を記録した。本人は「ヒットになったのはたまたまです」と言っていたが、その後の言葉で技ありの1本だったと納得させられる。
「サードが前に来ていたので三遊間のヒットゾーンが広くなる。だから、そこへ転がせば、と」
相手の守備陣形から的確な答えを導き出せる野球偏差値の高さは、「さすが名門・横浜高の出身だ」と感嘆させられるところだが、このような打球を安打にできるのは、何より最大のセールスポイントである足があるからだ。