プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ユーロ敗退はイングランドへの追い風!?
“弱いサッカーの母国”に革命を。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2012/07/08 08:01
ノルマであったグループリーグ突破を果たし、イタリアに屈するもポゼッションを志向した新たな方向性を示すことには成功したイングランド。真価が問われるのは2年後だ。
イングランドは、EURO2012で希望を手にした。結果とは矛盾するようだが、大会後の国内には前向きな空気が漂っている。
この10年間で4度目のベスト8止まり。苦手のPK戦による敗退。表面的には、虚しい幕切れを重ねた過去の国際大会と同様の結末だ。記憶に新しいところでは、2006年W杯後、デイビッド・ベッカムが涙ながらにキャプテンを降りた。一時代の終りを告げる準々決勝敗退だった。
ところが、今回は、新時代の始まりを告げる敗退として受け止められている。ロイ・ホジソン監督は、帰国を前に「イングランドの前途は明るい」と言った。キャプテン続投が決まったスティーブン・ジェラードも、エースであり続けるウェイン・ルーニーも、「前進できる」と口を揃えた。ファンは、最後まで「俺たちはホジソンの熱狂軍団だ!」と歌って支援を誓っている。
大会前の監督交代と故障者続出に見舞われたチームが、グループ首位でのベスト8入りという予想以上の成績を残したことに、人々が浮かれているわけではない。希望の源は、むしろ現実感。イングランドは、見えていそうで見えていなかった現実を直視することに成功した。本来ならば、ドイツに惨敗した2010年W杯でそうあるべきだったが、優勝の意気込みで臨んだ2年前とは違い、グループステージ敗退すら覚悟して迎えた今大会では、非力なサッカーの母国という「リアリティ」を、冷静に認識することができたのだ。
「精神力だけでは話にならない」とギャラガーは酷評。
スコア上は120分間で0対0でも、実際は劣勢だった準々決勝、イタリアに敗れたイングランドを「優勝候補には遠く及ばない第3集団の一員」と評したのは、元代表DFのジェイミー・キャラガーだ。
「イングランドは、FAカップ戦でプレミアリーグの強豪と戦う2部リーグ勢のようだった。実力差が歴然の格上を相手に、ガッツだけが讃えられる集団だ。テクニックとサッカーのクオリティでは、代表シーンの強豪に大きく水を開けられている。精神力だけでは話にならない」
酷評の理由は、またしても露呈されたポゼッション能力の低さに他ならない。イングランドが、準々決勝までの4試合で記録したボール支配率は、守るしかないチームと言われたギリシャとほぼ同じの40%台前半。シュート数も、ギリシャと同じ30本前後という最低レベル。トップレベルの数字を残したのは、CBのジョン・テリーに代表される、タックルやブロックの数のみ。決死の守りを繰り返すだけでは、トーナメントを勝ち上がることは難しい。