野球善哉BACK NUMBER
投高打低時代は守備を堪能する!?
阪神・鳥谷敬が魅せるプロの技。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/05/07 11:45
守備だけでなく、打撃も好調の鳥谷敬。5月5日からは打順が3番から1番に変わった。和田豊監督曰く「足もある、出塁率も高い。リードオフマンとしての素質があるので、いつかは1番に置きたいと思っていた」。
「時には正面の打球を逆シングルで捕ってみたり」
鳥谷は言葉をつなげる。
「ホントに、日ごろの積み重ねが大切だと思います。ひとつのゴロに対してどう捕るか、素早く投げるにはどうしたら良いか、いつも考えてきて、時には正面の打球を逆シングルで捕ってみたりといろいろ試してきた。そういう積み重ねで、ひとつずつできるようになってきたのかなと思います」
久慈コーチは、鳥谷の意識の変化を強調する。
「意識の変化はあると思いますよ。ゴールデングラブを初めて獲ったからね。自信になっているのもあるだろうけど、それ以上にまた獲りたいという意欲が湧いてきてると思う。その気持ちがあるからプレーに安定感があるんでしょうね」
鳥谷がその小さな積み重ねを続けていく限り、彼のプレーレベルはまだ上がっていくのだろう。鳥谷のプレーを見る楽しみも、これから先、まだ増えていくはずだ。
広島・前田健が完封ペースで投げ、阪神のニ遊間が鉄壁の守備。
少し遡るが、4月24日の阪神vs.広島の試合は、今季のプロ野球で、これまでのベストゲームとも思えるような素晴らしい試合だった。
広島の前田健太と阪神・メッセンジャーが先発。前田健は8回を2安打と好投し、阪神もメッセンジャーを中心にディフェンス面が試合を締め、白熱した投手戦を展開した。
4回表、2死一、三塁の場面で、広島の5番・広瀬純が放った二遊間のゴロを鳥谷が好捕。7回表には、1死一塁から、広瀬の二遊間のゴロを今度は平野恵一が上手くさばき、鳥谷とのコンビで併殺を成立させた。
広島・前田健がそのたぐいまれな投球術で試合を光らせたなら、阪神は二遊間の守備力で0-0が続く緊迫した試合を特別なものとしていた。試合は、広島の3年目・堂林翔太の一発で決したが、この1点がたとえホームランではなかったとしても、この試合は白熱した投手戦としてファンを十分に魅了したはずだ。
完封、投手戦、僅少差試合……ホームランが出ないからといって、野球に魅力がないわけではない。
簡単に味わえるものではないかもしれないが、完封をめぐる攻防やディフェンスの妙味もまた野球の魅力を物語る醍醐味なのだ。
鳥谷の守備を見るためだけにチケット代を払う……私はそれが惜しいとは思わない。
打線低調で負けが込んでいる今の阪神だが、観客がお金を払うに値するプロフェッショナルなプレーを鳥谷は見せている。