球道雑記BACK NUMBER
田中将大のリタイアで黄信号点滅!
東北楽天・塩見貴洋にかかる重圧。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/05/01 10:30
今季2勝目となった4月24日の対オリックス戦での塩見貴洋投手。「前回(18日の対ロッテ戦)、ふがいないピッチングをしていたので、今日は気合を入れて投げました」と試合後に熱いコメントを残した。
最短KOされた千葉ロッテ戦で、人前憚らずに流した涙。
塩見もそれは感じている。
「(昨年)9勝で良かったなとは全然思っていないし、新人だからとかそんなんじゃなくて、昨年ももっと自分がちゃんとしていれば勝てた試合が何個かありましたし、もっともっと上に行けるような数字を残せていたと思います」
そう語る塩見の視線はどこまでも真っ直ぐだった。
だからこそ自身最短KOとなった4月18日の対千葉ロッテ戦では、人前憚らず泣いた。
自身の生命線のひとつであるインサイドの直球で相手打者を攻めきれず、変化球はことごとくすっぽ抜けて四球からピンチを招き失点を繰り返した。
誰の目から見ても本調子の塩見とは思えないような投球。
「初登板の完封も、そんなことあったのかなって思うよ」
鬼の指揮官の言葉はいつも以上に厳しかった。
自慢の直球の威力を守るために新球のスクリューを封印する。
今季開幕前、塩見は新球スクリューボールをマスターしていたが開幕後はそれを封印した。理由はスクリューボールを投げた影響で、無意識に肘が下がってしまい自慢の直球に陰りが見えたからだった。
直球をより生かすためにマスターしたはずのボールが、諸刃の剣となって自身の武器も傷付ける。今季初登板となった4月3日のソフトバンク戦ではその新球を捨てて本来の武器であるインサイドの直球を中心に投球を組み立てて完封勝利を収めた。
最短KOをくらった千葉ロッテ戦の試合後も、塩見はビデオを見て自身の投球を振り返った。
「明らかに逃げ腰でしたね」
直球で攻めきれず、打者の狙いをかわす投球でいこうとした、あの日の自分を悔やんだ。
だからこそ24日のオリックス戦では再びしっかり腕を振り、より厳しく内角を攻めた。4番李大浩に対しては内角直球を武器に2三振を奪うと、オリックス打線から合計9個の三振で8回無失点に抑え今季2勝目をあげた。
「柱という言葉はまだ早いね。これを3、4回続けてくれれば文句ないんだけど」
苦言を呈しつつもこの日ばかりは鬼の指揮官も表情を緩めていた。