欧州CL通信BACK NUMBER
バルサCL連覇の夢、潰える――。
チェルシー“急造”4-5-0の鉄壁。
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2012/04/25 12:30
試合後、「すごく時間が長く感じた。でも、僕たちの夜になる、という感覚があった」と語ったランパード(左)。一方、メッシは、後半4分にはPKをクロスバーに当て、同38分にはシュートをポストに阻まれるなど決定機を生かすことができず、2連覇の夢を果たすことはできなかった。
前半終了間際、ラミレスはなぜ縦へと走り出したのか。
フランク・ランパードは試合後にこう振り返っている。
「10人で残り50分。途方もなかったよ。ただ、僕らには自信があったし、やるべきことは分かっていた」
バルサの2点目が入ってから2分後のこと。時計はすでに前半ロスタイムをさしていた。
テリーの退場により途中から右サイドバックでプレーしていたラミレスに、CBのイバノビッチからボールが渡る。するとラミレスは何を思ったか、前方のランパードにボールを預け、勢いよく前へと走り出した。
ランパードは上手くキープすると、前方へと走るラミレスを一瞥、プジョルとブスケッツの後方に空いた広大なスペースへ完璧なタイミングでスルーパスを通す。
走り込んだラミレスは、飛び出してくるGKバルデスの頭上を抜くループシュートを華麗に決めた。
すでに前半ロスタイムに入っていた。しかもチェルシーは10人である。普通であれば、そのまま耐えて前半を終えようとするだろう。
しかしラミレスは縦へ一目散に走り、たった一度のチャンスをものにしたのである。
全力で縦に走り出した理由、それがランパードが言う「やるべき事は分かっていた」ということなのかもしれない。
ボール奪取ではなく、スペースの抹消を優先したチェルシー守備陣。
ハーフタイムにチェルシーのディマッテオ監督はさらに変更を加えた。選手の配置を4-5-0とし、最前線にいたドログバを左サイドに置き、より後方を固める布陣を敷いたのである。
ハーフタイムにはまだ楽観的な空気が流れていたカンプノウだったが、不穏な空気が漂い始めたのは、後半4分にメッシがPKを外した頃からだ。
第1レグと同様、手にしたチャンスを決めきれないバルサ。時間の経過という焦りと、チェルシーの固められた布陣に、次第に相手エリア内に進入することができなくなっていく。
チェルシーは4枚の最終ラインの前に5人を置き、中央のスペースを完全に消し去っていた。
ボールは左サイドのイニエスタから中央のシャビを経由し、右サイドのダニ・アウベスへと渡った。しかしアウベスの前にはドログバが巨像のように構えている。そしてアウベスは再び中央へとボールを戻す――。
ボールは行き所を失ったように、無意味に左右を行き来するだけ。後半も半ばを迎える頃には、急造のチェルシー守備陣は完全に対バルサの守り方の感覚を掴んでいた。
「大変だったさ。でも組織として上手く守ることができた。もちろん幸運もあったけれど」とアシュリー・コールは言う。
メッシやイニエスタがボールを持っても無理に食いつかない。彼らが優先したのはボール奪取ではなく、スペースの抹消にあった。