自転車ツーキニストのTOKYOルート24BACK NUMBER

電車で縦断できない東京西部を行く。
自転車らしい発見のある不思議旅。 

text by

疋田智

疋田智Satoshi Hikita

PROFILE

photograph bySatoshi Hikita

posted2012/03/27 06:00

電車で縦断できない東京西部を行く。自転車らしい発見のある不思議旅。<Number Web> photograph by Satoshi Hikita

東京西部を縦に走る間、たくさんの鉄道路線をまたぐことになる。写真は世田谷線のピカピカの新型車両。こういう鉄道と自転車がもっと気軽にリンクするようになれば、都市交通網はますます快適になるに違いない。

練馬大根の本場だから……。

 さて光が丘を出てしばらく行くと交差点があって、「練馬谷原歩道橋」なる歩道橋が上空にかかっている。交差点内には自転車が通るところがどこにもなく、歩道橋にスロープが造ってある。

 くそー、ここにも「自転車疎外」の交差点が、なんて思うが、もう文句をいう気力もなく、この歩道橋を押し上がっていく。

 すると、お、歩道橋の上からシトロエンの看板が見える。CITROENの文字の下に、西武自販(西武自動車販売)なんて書いてあるぞ。

ADVERTISEMENT

 懐かしいな、バブル時代にはシトロエンやサーブ、フィアットなど「壊れる欧州車」ばかりを扱っていた会社だよ。西武自販の扱ってたクルマこそが、エンスー(死語?)なクルマだった。……って、え? 西武自販ってバブル崩壊後にクライスラージャパンかどこかに吸収されたんじゃなかったっけ? なぜここに看板だけが残ってる? ちょっと謎。

 まあいい。注目すべきは、その背景だ。

 写真でも見える通り、看板の背景は畑である。というか、走っているとすぐに気づくことなんだけど、このあたり、住宅地は住宅地ながら、かなりの部分「農村風」だ。風景の中に、ちらほらと畑。というか、かなり頻繁に畑の風景が現れる。東京都内、しかも23区内なのに。

東京23区産の新鮮な野菜を格安で食べることができる!

 歩道橋を降りてしばらく走っていくと、そのテイストはますます濃厚になっていった。ま、たしかに「練馬と言えば、練馬大根」という時期はかなり長くあったわけで、よくよく見ると、その大根も当然のような顔をして植えられている。

 大根以外にも、おー、この葉っぱはブロッコリだな。すでに刈り取った後で、茎だけが畑に残されている。

 それ以外にも、里芋に、ほうれん草に、ネギに……あれま、産地直売でも売ってるよ。100円とか200円とか、無人販売所があって、そこで「東京産野菜」が買えるのだ。ちょっとびっくりした。さすがは練馬。

 よく見ると、街道沿いの風景だって、よくよく見ると「元農家」というつくりの家が多いのだ。昔はここにトラクターが置いてあったんだろうな、と思われる納屋のようなものが普通にあったりする。

 ところどころに道祖神もしっかり残り、しっかり現在でも信仰を集めている(たぶん)。

 駅前の風景を見ているだけでは気づかない。

 縦ラインを走って初めて分かる「東京の真実」なのだ。あ、ちょっと大げさ。

東京西部を縦に走れば、鉄道路線をやたらと跨ぐ。

 さて、大泉学園の駅に着いた。これは西武池袋線。

 冒頭でも書いたように、東京の西側、縦ラインのつながりはうすい。本日のコースは、そこを強引に自転車でつないでいこうというわけなんだが、越えるべき鉄道路線を北から南まで順番に言うとこうだ。

 (1)東武東上線 (2)西武池袋線 (3)西武新宿線 (4)JR中央線 (5)京王線 (6)井の頭線 (7)小田急線 (8)東急世田谷線 (9)東急東横線、と地上に出ているものだけでも9路線ある。横路線はかくも緊密なのだ。ビミョ~に斜めの路線もあるにはあるが縦路線では(少なくとも鉄道に関しては)、この辺りに一つもないと言えるのではないか。ま、イビツと言えばイビツだが、東京とはそういう都市なのだ。

 さて、この大泉学園駅周辺には、たくさんの学校が集まっている。

 誤解されやすいけれど(私も誤解していた)別に「学校法人・大泉学園」などというものがここにあるわけじゃないんだね。関東大震災以降、ここを一種の「学園都市」にしようという気運が高まり、学芸大学を中心に、教育機関を集めようとして、この名になった。この大泉学園とはいわば人工地名なのだ。「つくば学園都市」なんて名前に似てる。

 結局、学芸大学の誘致には失敗したらしいけど、附属の中高や、数々の公立学校がここに集結した。だから、ここには「区立・大泉学園中学校」など、パッと聞くと公立だか、私立なんだかワカラン学校名が多数ある。

 気のせいか、頭の良さそうなガキンチョがおおぜい道を通ってるぞ。学芸大学附属の国際中等教育学校(中高一貫教育校をこういうのだそうだ)があって、附属小学校がある。小学校の校門前では、優しそうな守衛のオジさんが、下校の子供とじゃれていた。ああ、良い光景だ、と思う。

 さて、その学園都市から南にくだり、富士街道を曲がると、石神井公園の近くに出てくる。

【次ページ】 出来杉君の街・大泉学園と、のび太の街・石神井!?

BACK 1 2 3 4 5 NEXT

他競技の前後の記事

ページトップ