スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
クラブW杯制覇の大きすぎた代償。
EURO出場も危ぶまれるビジャの現在。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMiki Sano
posted2011/12/28 10:30
「頑張れ!グアヘ(ビジャの愛称)」と書かれたTシャツでCWC決勝のピッチに入場したバルサイレブン
DF2人と競いながらペナルティーエリア内左に走り込んだバルセロナのダビド・ビジャが、前方に浮いたボールへと左足を伸ばす。その足がピッチに接触した瞬間、彼の顔が激痛に歪んだ。クラブワールドカップ準決勝、アルサッド対バルセロナ戦の36分のことだ。
試合終了を待たず市内の横浜労災病院へ運ばれたビジャは、そこで脛骨骨折との診断結果を受ける。全治4~5カ月、今季絶望を意味する重傷だった。
加入1年目から絶対的なレギュラーとして活躍した昨季と違い、今季のビジャはセスク・ファブレガスやアレクシス・サンチェスの加入、新システム3-4-3の導入といった変化の中でチーム内での重要性が薄れつつあった。
10月末頃から今回骨折した左すねに痛みを抱えていたこともあるが、それもプレーできないレベルのものではなかったと本人が語っている。いずれにせよ、先日のレアル・マドリーとのクラシコのような大一番で、彼がベンチスタートすることなど昨季ではあり得ないことだった。
そのような状況下、カタルーニャ以外のメディアからはメッシとの不仲説や1月のプレミア移籍説といった憶測記事が目立ちはじめていた。それでもひたすらに沈黙を保ち、ピッチ上で自身の存在価値を示すべく我慢してきた彼にとって、世界の頂点を決める決戦を目前に控えての長期離脱はあまりにも残酷な仕打ちである。
「彼のケガは我々から喜びを奪った」と指揮官は嘆く。
「ビジャは左すねの骨にストレス性の傷を負った状態で長い間無理をしてきた。それが衝撃に耐えられなかった。第一に仲間として、そして選手として彼の不在は本当に痛い。復帰までにはかなりの時間がかかる。彼のケガは我々から喜びを奪った。体は空っぽだ。彼のためにも、世界一のチームになれるよう戦いたい」
試合後の会見でジョセップ・グアルディオラ監督は、そう言ってビジャが決勝を待たずすぐに帰国することを明かした。その表情は見るからに打ちひしがれた様子で、記者からビジャの代役について問われ「今はその話をすべき時ではない。もう少し彼のことを気遣ってくれないか」と怒りをあらわにする一幕も見られた。
「彼にとっても自分達にとっても大きな打撃だ。どんなケガだって痛々しいものだけど、あれは本当に辛い……」と肩を落としたのはプジョル。「今は新たなモチベーションが生まれた。全ての勝利をあいつに捧げるんだ。あいつのために、今まで以上に戦いたい」とキャプテンは自らを奮い立たせるように話していた。