F1ピットストップBACK NUMBER
トップ3と可夢偉の夢が疾駆する……。
日本GPの裏側で交錯した想いとは?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/10/11 12:00
ザウバーは、日本GPで投入した最新パーツがうまく機能したのだが……。「(韓国GPでは)鈴鹿で投入した空力アップデートによって競争力が発揮できると思う。ポイント争いができると確信している」とレース後にコメントした可夢偉
「誰かの後ろでフィニッシュするのは決していい気持ちではないし、ましてやオーバーテイクされることはどんな状況においても、我慢ならない。だから、タイトル争いが続こうと続くまいと、僕が日本GPに臨む気持ちに何の変化もない」
すでに前戦シンガポールGPで2011年のタイトル獲得の可能性が消滅していたアロンソは、自身10回目の日本GPへ向けた心境を、そう語った。その言葉が偽りでなかったことは、今シーズンそれまで14戦して12回のレースで後塵を拝まされ続けていたベッテルを、最後のピットストップで逆転したことでもわかる。
一方、ベッテルに対してただひとり、挑戦権を持って鈴鹿に乗り込んできたバトンには、ベッテルに負けたくないというレーシングドライバーとしての本能以外に、鈴鹿での勝利にこだわるもうひとつの理由があった。
「ガールフレンドが日本人だということもあるけど、僕にとって日本は特別な場所なんだ。ホンダのスタッフたちと多くの時間を過ごしたからね。日本人が持つ何事に対しても折れない強い精神力は、本当に尊敬に値する。いまの僕があるのは、彼らのおかげ。そんな日本人が震災にあって苦境に立たされているのだから、今度は僕が彼らを勇気づけたいんだ」
開幕戦から「頑張れ、日本」という文字を頭頂部に刻印したヘルメットを着用してきたバトン。鈴鹿では白地に日の丸をペイントした特別バージョンで臨んだレースで、2回目のピットストップ後に逆転。「大好きなコース」という鈴鹿で初優勝を飾った。
2位に大差をつけての2連覇でも、ベッテルはヘルメットの中で涙した。
その2人に敗れ、3位でフィニッシュしたベッテルだったが、自力Vの条件だった1ポイントを上回る15点を加点し、2011年のドライバーズ選手権を制した。
24歳98日で成し遂げた今季の戴冠は、'06年にアロンソが樹立した25歳85日を約1歳も短縮する史上最年少での2連覇となった。ランキング2位に大差をつけ、4戦を残してのタイトル獲得にもかかわらず、チェッカーフラッグを受けた後のチャンピオンズランで、ベッテルはヘルメットの中で涙した。
「去年の最終戦での大逆転から一転して、今年はこんなに早くタイトルを決定したから、みんなは楽勝だったと思っているようだけど、実際はそうじゃない。去年は僕たちがリードしていたにもかかわらずトラブルに見舞われたり、自分たちのつまらないミスによって台無しにしたレースが少なくなかった。結果的に接戦になったけど、去年のほうがライバルたちを圧倒していたんだ。でも今年は去年より多くの勝利を挙げているけど、ほとんどが接戦。みんなが思っているよりも、厳しいシーズンだった」