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無差別の醍醐味から階級別の精緻へ。
スポーツとして成熟するMMA進化論。 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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posted2011/08/14 08:00

無差別の醍醐味から階級別の精緻へ。スポーツとして成熟するMMA進化論。<Number Web> photograph by Getty Images

秋山成勲(右)と対戦したビクトー・ベウフォートは元ライトヘビー級(93.0kg)の王者。ベスト体重から10kg前後も減量し、ミドル級(83.9kg)へ階級を下げ見事TKO勝利。秋山はUFC3連敗を喫した

階級を下げることで勝利を手にした選手は数多い。

 格闘技における階級とは試合時の体重ではなく、極端にいえば“秤に乗った瞬間だけの数字”なのである。

 通常体重と階級の差があまりない秋山は、体格、パワーの面で不利となる。彼本来の能力を活かすためにも、UFC首脳陣は秋山がウェルター級で闘うことを望んでいるのだ。

 階級を下げる例は、日本でも数多い。

 今年、開催されたDREAMのバンタム級ジャパンGP(61kg)に出場した選手の大半はフェザー級(65kg)からの転向組。ライト級(70kg)王者の青木真也も、デビューからしばらくはウェルター級だった。

 9月24日に開催される『DREAM.17』では、青木のライバルだった川尻達也がフェザー級で再出発する。その対戦相手であるヨアキム・ハンセンも元ライト級だ。

 階級を落とせば、対戦相手の体格が小さくなり、それだけ勝つ可能性も上がる。相手のスピードが上がって逆に苦しむということも考えられるが、いずれにせよ“自分の本当の適正階級はどこか”は、選手なら誰でも一度は考えたことがあるはずだ。

無差別最強の幻想から、階級別競技としてのMMAへ。

 MMAのルーツはブラジルのバーリ・トゥード(なんでもあり)。ケンカ、決闘という背景がある。

 日本では、PRIDEがヒクソン・グレイシーvs.高田延彦から始まったように、プロレスの競技化=階級無差別というイメージが強かった。

 2000年に開催されたPRIDE GPも無差別級で、現在はウェルター級の桜庭和志がヘビー級の選手に混じって試合をしている。

 近年、階級を下げる選手が増えているのは、MMAがスポーツとして整備され、軽い階級にも魅力があることをプロモーターやファンが気づいたからだろう。

「それでは格闘技の醍醐味が失われてしまう」、「階級が多くて分かりにくい」という声もあるものの、この流れは止まらないはずだ。技術の向上やウェイトトレーニングだけでなく、減量もまた“勝つための努力”であり、競技者はあらゆる手段を講じて勝利を追求するものなのだ。

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