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兄弟プロ野球選手のドラマ 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2006/07/13 00:00

兄弟プロ野球選手のドラマ<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 ──野球は筋書きのないドラマだ──

 今更目新しいフレーズではないが、通常先の読めない試合展開の時に使用される。だが今回ばかりはグラウンドの外で、2人の兄弟に何ともやりきれない“悲劇”が起こってしまったのだ。

 “兄”ジェフに非情な通達が届いたのは、6月30日だった。開幕から地区最下位に低迷するエンジェルス。今季16試合に先発し、3勝10敗、防御率 6.29と大不振を極めていた男に、後半戦の巻き返しを図るための措置としてシーズン途中の解雇を決定したのだった。そしてジェフの後釜に指名されたのが、何と“弟”ジェレッドだったのだから、これ以上の皮肉な出来事はなかったであろう。

 2年前にドラフト上位指名候補として、大学生だったジェレッド・ウィーバーを、この場で紹介したのをご記憶だろうか。結局代理人(ジェフと同じスコット・ボラス氏)の暗躍(?)もあり、全体の12番目でエンジェルスが指名。その後契約交渉が長期化し、ようやく昨シーズン途中で契約がまとまり、シーズン途中からエンジェルスのマイナー組織でプロ生活を始めていた──というところまでは、すでに報告していた。

 そして迎えたプロ2年目。開幕当初は3Aスタートだったが、故障したコロンの代理先発として5月26日にメジャー初昇格。そのままコロンの復帰する6月 17日まで4試合に登板し、4勝0敗、防御率1.37と圧倒的な成績を残した。これが結果的にジェレッドの将来性に賭けたエンジェルスが決断を下し、不振だったジェフに三行半を突き付けることになってしまったわけだ。

 「昨夜兄さんと電話で話をした。今回はビジネスの部分のことだからね。理解はしている。もちろんメジャーに戻ってこられたのは嬉しいけど、ただ違った環境であってほしかった。でも僕ら2人は野球を通じて強い絆を築いてきたんだ。今後も僕らから野球を奪うことはできないし、今まで通りの関係に変わりはないよ」

 ジェレッドの言葉は明らかに悲喜が入り交じった複雑な心境を表していた。というのも兄弟にとって長年の夢だったのが、同じチームでプレーするということだったからだ。

 「エンジェルスで本当に良かった。ここには家族もいるし、兄もいる。いつも家族が一緒にいられるなんて最高だ。僕にとって家族は最も重要なものなんだ」

 2年前ドラフト指名されたジェレッドは嬉しそうに話した。当時ジェフもドジャースでプレーしており、家族とともにジェフの登板を観戦に来たジェレッドの姿がたびたび目撃されていた。

 「弟が同じLA地区のチームに決まったなんて、これ以上のことはないよ。時間ができたらいつでも会えるし、彼が早くメジャーでプレーする日が楽しみだ。でもいつかは同じチームでプレーできたら嬉しいね」

 2年前、同じように喜びを語っていたジェフだが、その機会が意外にも早く訪れた。というよりも、ジェフ自らの意志で夢を実現させようとした。昨年一杯でドジャースとの契約が切れたジェフ。チーム最多の14勝を挙げ、大型契約を提示し、熱心な残留交渉をしてきたドジャースや他チームの袖を振り、キャンプ開始直後の2月15日にジェレッドのいるエンジェルスと1年契約を結んだのだ。

 「いくつかのチームから複数年契約の提示を受けた。でも勝者のチームでプレーしたかったし、現時点ではこのチームが最適だと思った。僕が期待している以上に弟は興奮していたよ。僕らはここ8、9年でかなり親密な関係なんだ」

 エンジェルスに合流したジェフの言葉通り、ジェレッドは喜びを全身で表していた。

 「僕らが一緒にプレーできる数少ないチャンスの1つだ。キャンプも一緒に過ごせるなんて最高だよ。これまで僕らは一度も同じグラウンドに立ったことがなかったんだから」

 しかし前述した通し、2人が一緒にメジャーで過ごした時間はわずか22日間で終わり、皮肉にもジェレッドの飛躍が逆に2人の夢を短期間で引き裂くかたちになった。

 「自分はナショナル・リーグのスタイルに合っているのだと思う。投げるだけでなく、ある程度打つこともできるからね。だからこそ自分はこのチームに呼ばれたのだと思う」

 結局ウェーバーの末、カージナルスにトレードされたジェフ。心機一転し後半戦の抱負を語った。とにかく今は2人とも私情を忘れて野球に専念するしかない。野球がある限り、離ればなれになっても兄弟はこれまで通り堅くつながっていける。そして少しでも長くメジャーでプレーを続けたい。再び2人の夢を実現するためにも…。

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