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トヨタ方式の成果は?
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/01/25 00:00
1月14日、全F1チームのトップを切ってトヨタが新車TF106を発表した。昨年まではスペインのバルセロナが発表会場だったが、今年はフランスのヤリス(日本名ヴィッツ)生産工場であるバランシエンヌがその会場。例年なら新車を発表してすぐに近くのサーキットでシェイクダウン・テストに入るのが慣わしだが、新車とはいえこのTF106はすでに昨年11月のオフテストに2台体制で参加済み。実際には十分な走り込みをしていることから、発表会だけで十分だったのだ。
TF106は昨年終盤2戦の日本と中国で走ったTF105Bの3リッターV10エンジンを今季用2.4リッターV8エンジンに換装し、それに合わせてリヤ・サスペンションと空力デザインを今年用に改造したモデルだ。つまり新車のベースはすでに昨年から実戦投入されており、鈴鹿でポールポジションを奪い、中国で3位入賞を果たすなど実績十分(いずれもラルフ・シューマッハー)。
ここ2年、トヨタはシーズン中に大幅な改良モデルを投入するという変則的なマシン造りをしているが、これは1年一作の“イヤーモデル”という常識から脱却し、翌年につながるマシンを早期投入してマシン開発の前倒しをする戦略で、一般車でいえば4年に一度のモデルチェンジ・サイクルを2年にしようというようなものといえようか。いずれにしても先手先手と打って出ているわけで、今年はその変則開発の効果をじゅうぶんに発揮できそうである。
というのもレギュレーションの激変期には大メーカーが開発力の点でアドバンテージを持てるからで、トヨタは昨年の6月に早々と2.4リッターV8試作エンジンをテスト走行させ、その後も実走テストを続行。いっぽうで上記のごとくTF106のベースとなるTF105Bを開発し、11月のオフテスト解禁となるやいち早く新車をシェイクダウン。これで他チームのように車体の開発もV8エンジン開発もと二兎を追う必要がなく、開幕戦に向けてV8エンジンの信頼性アップに集中できる。
今シーズン前半戦のキーはいかにエンジンの信頼性を上げるかにかかっており、新車発表会にいたるまでのユニークかつ精力的な動きをみると、参戦5年目のトヨタの初優勝が見られるのはシーズンもそんなに先の話ではなさそうである。
発表会の席上でシャシー部門テクニカル・ディレクターのマイク・ガスコインは「モナコあたりに次のモデルを出したい」と語っていたというが、仮にそれまでに何回かの優勝を手にしていれば、当然次の目標は次世代マシンを早急に開発しての2007年におけるチャンピオン奪取。
であれば、トヨタの次の一手はチャンピオンになれるドライバーの獲得だろう。先ごろM・シューマッハーのマネージャーが「ミハエルがトヨタ入りする可能性がないとはいえない」と語ったとのニュースが流れたが、新車発表会で弟ラルフは「兄貴がここに来ることは100%ありえないね」と笑ったという。となると以前から噂のライコネンがトヨタ入りするのか?それとも……これから白熱化するストーブリーグも含めて楽しみな今年のトヨタの存在である。