濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
佐藤ルミナ、無名選手にKO勝ち。
そこにあった2年半分の重み。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2009/11/05 10:30
「ダメなら辞めようとも思っていた」という佐藤は、コーリー・グラントにKO勝ちを収め、「もう少し続けられる自信がついた。残り少ない格闘技人生を見守ってください」とファンに語った
躊躇なきフィニッシュに見たルミナらしさ。
グラント戦、ルミナに大きなピンチはなかった。それでも観客は、足元に薄い氷を感じ続けていたのではないか。「いつ逆転されるか分からない」。ルミナが攻めれば攻めるほど、その感覚は強さを増していく。だが、ルミナは当然のように攻め続け、そのまま試合を終わらせた。前方にジャンプしながら顔面を襲う、通称スーパーマン・パンチからヒザ蹴り、そしてパウンドの連打。一連の攻撃には、ほんのわずかな躊躇さえもなかった。
1ラウンド3分20秒、KO勝ち。フィニッシュの連続攻撃は、いかにもルミナらしかった。頭をよぎる“万が一”の思いを振り払ったからこその勝利だった。ルミナは言った。「みなさん、お待たせしました。これが僕です。This is ルミナ!」。その言葉に、会場の“湿度”は頂点に達した。
年齢を重ね、勝率は下がっても、ルミナはルミナのままだった。生き方を変えず、リスキーなファイトスタイルを貫いて、2年半ぶりの勝ち星を得たのだ。世界のトップからほど遠い、ごく局地的な勝利は、しかしルミナと彼を見続けてきた人間にとって2年半分の重みをもつ勝利だったのである。