Column from SpainBACK NUMBER
バルサの幸福とちょっとの不安。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2006/05/25 00:00
ド派手な改造トラックが、バルセロナの街中を走った。バルサのチャンピオンズ・リーグ優勝パレード。高さ3、4メートルはある舞台で選手たちは踊る踊る。先頭には、ロナウジーニョのためのドラムが置かれていたのには、笑った。
彼らはパリから空港に着くと、海からフェリーでバルセロナの街に現れた。夕方の交通渋滞を避けてのナイスな案。最新の粋な音楽に合わせてドラムを叩くロナウジーニョ。その横ではモッタとベレッチ、エジミウソンにデコが踊る。舞台のメインで騒ぐブラジル人。その後方でひっそり手を振るカタラン人。前へ後ろへと顔を出すライカールトとテン・カテ。トラックの舞台はそのままグラウンドでの光景を表していた。
ブラジル人、カタラン人、アルゼンチン人、カメルーン人、メキシコ人、オランダ人といった異なる人種の集合体をまとめてきたライカールトとテン・カテ。パレードのあと、カンプ・ノウで行われた祝賀会では、テン・カテを肩車して送り出したライカールトの、喜びと悲しみのまじった顔が忘れられない。新シーズンからテン・カテがバルサを離れることはかなりの戦力ダウンだ。「まだ、何も決まっていない」というライカールトだが、後任にはすでにヨハン・ニースケンスに声をかけているという。ニースケンスは「もうひとりのヨハン」として70年代のバルサを彩った選手である。申し分はない。現在はオーストラリア代表のコーチとしてヒディンクの相方をしている。
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テン・カテだけでなく、ラーションとガブリにとってもこの夜が最後だった。彼らには多くのオファーが舞い込んでいる。ラーションはおそらく母国へ。ガブリはテン・カテのアヤックスが熱心に口説いている。
ラーションは1年ほど前からバルサを出たがっていた。残り少ない現役生活。出場機会の少ないことに不満を抱いていた。でも、彼のことは誰もが尊敬している。感謝の気持ちを抱いている。エトーがアフリカ選手権で抜けたとき、メッシが長期戦線離脱したとき、穴を埋めたのはラーションだったから。
チキ・ベギリスタインをはじめとするバルサの役員は、ラーションの後釜探しで忙しい。アンリにフラれ、ビジャレアルのフォルランが候補にあがっているけれども果たして。ビジャレアルはこのたび、レアル・ソシエダからニハトを獲得したばかり。アーセナルのピレスを狙ってもいる。来季に向けて戦力を整えているさなか、フォルラン放出は考えにくい。
ならばとバルサでは、モリエンテスの名前もあがっている。リバプールのストライカーのことは数年前にも熱心に誘ったが、やはりそこはレアルっ子、なかなか裏切る気にはなれないようだ。ユベントスのトレゼゲにしても、過去数シーズンの返事は「NO」である。
フラれっぱなし。ラーションのように気の利く男はなかなかいないもんだ。ぽっかりと開いたテン・カテとラーションの穴はとてつもなく大きい。
しかし逆にいえば、今シーズンのバルサはほんとにうまく築かれていたといえる。フロントも現場も、戦術も人間関係も。途中、何人か役員のクビが飛んだけども、あの賑やかな現場の空気は心地がよかった。
シーズン中は飲みに出かけないというプジョールも、さすがにこの夜は酒を浴びずにはいられなかっただろう。奇跡のシーズンを終えたバルサの幸せな1日。さて来季はどうなりますか……。