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アストロズ 死地からの生還 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/10/25 00:00

アストロズ 死地からの生還<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 ナ・リーグ選手権第5戦、アルバート・プーホールスの特大逆転ホームランが飛び出したとき、アストロズのシーズンは終わったかのように見えた。飛距離も特大だったが、プーホールスのホームランがアストロズに与えたショックは、それ以上に大きいように見えたからである。

 3勝1敗と王手をかけたこの試合、4対2とリードした9回表、アストロズは、抑えのエース、ブラッド・リッジをマウンドに送った。今季、8回終了時点でリードした試合は84勝1敗と大きく勝ち越してきた上、リッジは、カージナルスを71打数7安打(打率0割9分9厘)無失点と完璧に抑えてきた。先頭打者二人を簡単に三振に打ち取った後、デイビッド・エクスタインもカウント2−1と追い込んだ時点で、アストロズの勝利は動かしがたいように見えた。7回裏に主砲ランス・バークマンの逆転3ランが飛び出た後、ずっと立ち詰めで応援してきた満員の観衆も、「あと一球」でチーム創設44年目にして初めてのリーグ優勝が達成されると、ひときわ応援の声と拍手を大きくしたのだった。

 1980年以降、アストロズがプレーオフに進出するのは今回で9回目だが、これまで、いいところまで迫りながら優勝を逃すことを何度も繰り返してきただけに、アストロズ・ファンは、「まだ安心できない」と用心深い応援をすることで知られている。しかし、「あと一球」という場面になって、さしもの用心深いことで知られるアストロズ・ファンも、「もう勝った」と、すっかりガードを下げてしまった。テレビカメラが、ネット裏で立ち上がって拍手を続ける、ドレイトン・マクレイン・オーナーの顔をアップで捉えたが、マクレインの顔も、悲願の優勝を「遂げた」喜びに輝いていた。

 しかし、エクスタインが渋いゴロで三遊間を抜き、続くジム・エドモンズも四球を選んだ後、プーホールスの逆転3ランが飛び出し、アストロズ・ファンは、歓喜の絶頂から絶望のどん底へとたたき落とされた。それまで球場を包んでいた歓喜の声援が、一瞬の間に、重苦しい沈黙に取って代わられたのだった。

 歴史上、「あと一球で優勝」と迫りながら、逆転ホームランを喫した例としては、1986年のエンジェルスが有名だ。アストロズと同じく、3勝1敗と王手をかけたリーグ選手権第5戦、デイブ・ヘンダーソン(レッドソックス)に逆転ホームランを打たれたのだが、エンジェルスは逆転負けのショックから立ち直ることができず、第6・7戦も連敗、初優勝を逃してしまった。

 その後、02年にワールドシリーズに優勝するまで、エンジェルスが86年のショックから立ち直るのに16年かかったが、逆転負けのショックから永遠に立ち直ることができなかったのが、ヘンダーソンに逆転ホームランを打たれたクローザー、ドニー・ムーアだった。ムーアは、ヘンダーソンにホームランを浴びた後スランプに陥った上、ファンから「戦犯扱い」を受け、登板するたびにブーイングされ続けた挙げ句、89年に拳銃自殺してしまった。

 エンジェルスとムーアの故事もあるだけに、第5戦が終わった時点で「プーホールスのホームランでアストロズは死んだ。絶対に立ち直れないだろう」と結論する向きがほとんどだったのである。

 しかし、ファンや評論家の「死亡宣告」をものともせず、アストロズは、第6戦を5対1と快勝、ワールドシリーズ初出場を達成した。第5戦敗北の影響について、アストロズの選手達は「今季、俺たちは何度も死んできたから」と、苦しいシーズン展開で鍛えられた精神力の強さを、勝因に上げた。

 選手達が言うように、今季のアストロズは、15勝30敗、首位から14ゲーム差の最下位と、最悪のスタートを切った。優勝争いに絡むことができるなど、誰も夢にも思っていなかったし、熱心なファンでさえも「今季は終わり」と早くに諦めていた。地元ヒューストン・クロニクル紙が、6月1日のスポーツ欄トップに「2005年アストロズ 安らかに眠る」と記された墓石の漫画を載せたが、シーズンが3分の1を終わった時点で、公式に「死亡宣告」を下されていたのである。

 と、しっかり死んでいたはずのアストロズだったが、6月1日以降70勝41敗(勝率6割3分1厘は6月1日以降に限るとメジャー最高)と復活、見事にワイルドカードによるプレーオフ進出を果たした。しかし、ブレーブス相手の地区決定シリーズ、アストロズは、再び絶体絶命の危機を迎えた。最終第5戦、8回表終了時点で6対1とリードされ、今度こそ「本当に死んだ」ように見えたのだが、8回裏にバークマンの満塁ホームランで1点差に迫ると、9回2死「あと一人」というところでブラッド・オースマスがホームラン、同点に追いついたのだった。その後、延長戦はプレーオフ最長記録となる18回まで続いたが、最終的に、新人クリス・バークのサヨナラ・ホームランでアストロズはブレーブスを振り切ったのだった。

 このように、今季は、何度も死の淵から生還してきただけに、少々のことでは死なない精神力を有していると、選手達は言うのだが、アストロズの精神力の強さを示すエピソードを以下に紹介しよう。

 プーホールスのホームランで負けた直後、敵地セントルイスへ向かう機中でのことである。「皆さん、左側の窓から外をご覧下さい。プーホールスが打った打球が、この飛行機を追い越すところがご覧になれます」と機長がアナウンスした途端、機内は大爆笑に包まれたという。このジョーク、オースマスが機長に頼んでアナウンスさせたものだが、自分たちの、悪夢のような逆転負けを笑いのめすことができるのだから、確かにこのチームは強い。

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