Jリーグ観察記BACK NUMBER
Jリーグであえて「格差」を楽しむ。
~ピッチ外の社会的テーマに注目~
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2010/02/16 10:30
昨季、J2最終戦の大逆転で昇格を決めた湘南の反町康治監督。J1でもサプライズを起こすことができるか。隣は湘南生え抜きの田村雄三
経営母体の多様さが“魅力的な格差”を生じる。
Jリーグは、プロ野球と比べて経営母体が多様だ。浦和(三菱)、名古屋(トヨタ)、横浜FM(日産)、G大阪(パナソニック)のように世界的な大企業を持つクラブもあれば、山形のように社団法人が運営するクラブもあるし、湘南のように市民参加型のクラブもある。これが経営規模の差を生んでいる原因なのだが、サッカーにおいては格差があるからこそリーグが魅力的になるとも言える。
今季の、山形と湘南が浦和と対戦するカードは、「格差対決」として見れば、よりおもしろくなるのではないだろうか。
FC東京の城福浩監督の前職は大企業の“リストラ課長”。
もうひとつの「楽しみ方」は、ベンチに座る監督にまつわることである。
今Jリーグで指揮をとるほとんどの日本人監督に、共通する点がある。選手時代はまだJリーグがなく、サラリーマンをやりながら実業団チームでプレーしていたということだ。
特に以下の3人は、ただ会社に席を置いていたタイプではなかった。
FC東京の城福浩監督は、富士通のサラリーマン時代、会津若松の半導体工場に“リストラ課長”として送り込まれたことがある。労働組合の人たちと毎晩のように飲み歩かなければいけず、肝臓を壊してしまった。
また、仙台の手倉森誠監督は、住友金属時代、1600度にもなる溶鉱炉で働いていた。湘南の反町康治監督は、総合職で全日空に就職。Jリーグ発足後も全日空の仕事を続け、サラリーマンJリーガーとして話題になった。
Jリーグには感情移入できる社会的テーマにあふれている。
ここで強調したいのは、彼らは親会社を辞めて、プロ選手、もしくはプロ監督へと“転職”したということだ。
世界を見渡しても、これほど元サラリーマンの監督が多いサッカーリーグは、他にないだろう。Jリーグのベンチが映ったときには、彼らが安定した生活を捨て、プロの世界に飛び込んできた過去があることを思い出して欲しい。
「格差」、「転職」といった社会的テーマがJリーグにも転がっており、そこに注目するとより観戦が味わい深くなるはず。結果だけ見て「貧乏チームが金持ちチームに勝った」とイメージできる人が増えれば、もっと多くのファンをJリーグに取り込めるのではないだろうか。