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カッサーノは異国で大人になれるか。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2006/01/06 00:00

カッサーノは異国で大人になれるか。<Number Web> photograph by AFLO

 年が明けた2日、ローマのFWカッサーノ(23)がセリエAに別れを告げた。レアル・マドリーのペレツ会長に再三口説かれた末、ついに銀河系集団のユニフォームに袖を通すことを決意したのだ。昨夏からスポーツ紙の一面を賑わした移籍騒動は、「落ち着くべきところに納まった」と報じられ、ついに終止符が打たれた。

 苦労しらずの天才プレーヤーが、スペインで欧州サッカーの修羅場を経験することに皆が賛同している。カッサーノの獲得に水面下で動いていたインテルのモラッティ会長も交渉を断念し、カッサーノの大きな課題である「大人になること」、つまり天才であってもプロ選手としての心得についてレクチャーを受ける必要があると、レアルにセリエAの腕白坊主の教育を託したほどだ。

 国民はカッサーノを愛し、彼の神業に惚れ込んでいた。バリに入団し、17歳にしてセリエAデビュー。デビュー戦の1週間後に行われたインテル戦ではセリエA初ゴールを記録。相手4人を抜いて叩き出した弾道は、対戦相手のロベルト・バッジョをはじめ両イレブンの度肝を抜いた。カッサーノの勇名はセリエA2試合目にしてイタリア全土にとどろき、一躍スター選手の仲間入りを果たすこととなった。

 しかし、問題は「カッサナータ(カッサーノの横柄な態度を指す)」だった。イタリア人監督からは三下り半をつきつけられ、ローマのオーナーの心労もすでに限界を超えていた。カッサーノの品行にしびれを切らしたロセッラ・センシ会長は、イタリアでは非常に稀な「タレントの輸出」という大胆な行動に踏み切ったのだ。

 イタリアでは、代表クラスの若手選手の輸出は、1997年にミランのDFパヌッチがレアル・マドリーに移籍、ユベントスが当時24歳のルーキー、FWビエリをアトレチコ・マドリーへ放出して以来の一大事だ。

 そもそもセリエAでは優秀な人材を自国に抱える傾向があり、欧州カップ戦でライバルとなる外国クラブにタレントをみすみす手渡すという考えはない。選手にとっても、世界最高峰と謳われるリーグで、しかも高額の年俸が保障されたイタリアから飛び立つだけのチャレンジ精神の持ち主も存在しなかった。これらが他国に比べて「タレントの輸出」が回避されてきた要因である。

 カッサーノのレアル入りは、世代交代した30代の女性会長による意表をついた試み、そして「人間として成長して欲しい」というイタリア国民の親心から実現したといえる。

 天才カッサーノにとっての戦いはこれからが本番だ。

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