佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
ピットストップ
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/05/30 00:00
予選21位……まるで昨年に戻ったかのような予選ポジションに、セッション後の佐藤琢磨は憮然とした表情を隠さなかった。
まさかのQ1敗退。チームのエンジニアは「申し訳ない」を繰返すが、いったいなんでこうなったのか、がすぐには分からない。ただ琢磨はメカニック達の給油作業のゆっくりさにコクピットの中で(間に合うのかな?)と思ってはいたという。
Q1の制限時間は15分。ぎりぎりのところでタイム更新のアタックをかけるにしても、ピットアウトした周にタイヤを温めながら最終コーナーからスパート。コントロールラインをまたぎ、1周してチェッカーを受けるのが限界。それにはチェッカー提示1分半前にピットから出なければならないが、琢磨がコースインした時にはすでに1分を切っていた。
チームに、15分をいかに使うかの綿密なプランが出来ていた。ところが、最後のアタックに入る“GO!”の指示が遅れた。たんなる琢磨のクルーの凡ミスと思えないのは、チームメイトのデイビッドソンも最後のアタックが出来ず、ピットにいてチェッカーの時間を過ごしたのだった。
鈴木亜久里オーナーは、予選戦略のスケジュールがあまり細か過ぎたために起きたミスというが、いずれにせよただでさえ前車を抜くことがほぼ不可能なモナコで、予選最後列は好成績を期待する方が無理。せめてワンポジションでも前でフィニッシュさせようと、チームはスタート時にグリップのいい柔らかいタイヤを履かせて琢磨をコースに送り出し、2回ピットストップ作戦を組んだ。
スタートのうまい琢磨は序盤、17位を走行。1回目ピットストップの前のヘアピンでは、後ろから迫って来る首位アロンソに道を譲りながら、目前のトゥルーリが同じアクションをした一瞬の隙を逃さずパス。この技には琢磨自身も満足だったようで「スッと、いただき」と言って笑った。
もっとも琢磨の2回ピットストップに対し、抜いたトゥルーリと、琢磨の後方にいたラルフのトヨタ勢は1回ストップ。琢磨の健闘むなしくトヨタ勢2台に先を越され、17位でチェッカーを受けるのが精一杯だった。
「まず、マシンにもう一歩のスピードが欲しかった」と、琢磨。毎ラップ少しずつタイムを削り取れば、トヨタ勢の前でチェッカーを受けられたかもしれない。もうひとつ付け加えるなら、ピット作業のさらなる迅速さだろう。琢磨車は1回目ピットストップでエンストしそうになって出足が一瞬鈍ったが、それだけで2秒のロス。それらのロスが積もり積もれば、ポジションでひとつふたつドロップしてしまう。ゴルフにたとえるなら、ロングショットのミスであれ、ショートパットのミスであれ、同じ一打のミスとしてカウントされてしまうということだ。ピットストップの“小技”のミスでポジションを失うのはもったいない。
前戦スペインで8位入賞したことで、スーパーアグリはさらに突き進んだ領域に入った。Q1の失敗もそれゆえと思いたい。あまりに背伸びし過ぎると足元がフラついてしまい、元も子もなくなる。初心忘るべからず……スーパーアグリ・チームはいま、そんな段階に入ったのかもしれない。