野ボール横丁BACK NUMBER
斎藤佑樹の覚悟と苦悩。
プロへ向けての更なるレベルアップ。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTamon Matsuzono
posted2009/09/24 12:40
「野球から逃げたくない」
少し前のインタビューで、早大の斎藤佑樹はそう答えていた。
大学3年生になり、ようやく覚悟を決めたのだな、そんなことを思った。
大学1、2年生の頃、斎藤は「野球だけの人間にはなりたくない」と言い、どこか将来の進路を決めかねているところがあった。おそらくはプロ野球選手になるのだろうけど、それ以外もありだよな、と。
そんな「以外」のうちの1つとして、「アナウンサーにも興味がある」といった類の話をよくしていたのだが、半ば冗談とはいえ、そこまで満面の笑顔をつくって話していいものだろうかと、ちょっと不安になったことがあったのも確かだった。
「普通の高校生」がなりたかった「普通の大学生」。
斎藤は高校3年の7月まで「普通の高校生」だった。ところが、その1カ月後、「甲子園の優勝投手」というガラスの靴を履き、一転してシンデレラボーイになった。
ただ、斎藤はそれでも「普通の大学生」になりたかったのだと思う。より正確には、それ以外の自分を描くには、あまりにも時間が足りなかったのだ。
高校卒業後、早大に進めるという確証がなかったら、あるいは、そのままプロという選択肢もあったのかもしれない。ただ、あの時点で、斎藤はまだプロ野球選手になった自分をイメージしきれていなかった。それが進学を選んだ最大の理由だった。
ところが大学で予期せぬ苦しみが待ち受けていた。
大学生になってから力み、変化した投球フォーム。
大学生になってからというもの、斎藤は何度となく吐露している。
つまり、高校時代の真っ直ぐを取り戻せず、ずっと苦しんでいる、と。
9月19日の東大戦のあと、あるスポーツ紙で3枚の斎藤の写真が並んでいた。リリース直前の姿で、高校時代、昨年、そして現在のものだ。そうして見比べてみると、斎藤が話す悩みが手に取るようにわかった。
高校時代の投球フォームは惚れ惚れとしてしまう。上半身がまるでキャッチボールでもしているかのようにリラックスしているのだ。ところが年代が上になるごとに上体が力み、顔が傾いている。軽快さが、まるでなくなっていた。
その3枚の写真は、高校時代の伸びのある真っ直ぐを投げようと思えば思うほど投げられなくなっていってしまった斎藤のジレンマを見事に物語っていた。