青春GOLF ――石川遼に密着! BACK NUMBER
互いに尊敬し合う宮里藍と石川遼。
世界の頂点を夢見るその共通点。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byGetty Images
posted2009/08/05 11:30
石川遼は家に着くと真っ先にテレビのリモコンに手を伸ばした。
サン・クロレラ・クラシックで初日からの首位を守って今季2勝目。猛追してきたブレンダン・ジョーンズとの激しいデッドヒートを制して涙したその日の夜のことである。
北海道の会場から埼玉の自宅に戻った頃には、時刻は午前零時を過ぎようとしていた。充足感と心地よい疲労感に包まれて眠りについてもいい時間だったが、普段は人の試合にさほど興味を示さない石川がテレビの向こうで行われている戦いにじっと目を凝らした。
そこには全英リコー女子オープンでメジャー制覇に向けて奮闘する宮里藍の姿があった。
石川遼と宮里藍の知られざる接点。
今から6年前、石川は自宅から近い千葉CCで行われた日本女子オープンに足を運んだ。宮里の組にくっついて「ナイスパー」と声をかけると、「ありがとう」とほほ笑んでくれたという。小学6年生のジュニアゴルファーにはうれしいゴルフ観戦の思い出が残った。
一方の宮里は、'07年のオフシーズンに石川の言葉に触れて感銘を受けている。
「石川君が毎日会見をすることで1日を冷静に振り返れると言っていたのを読んで、この子はすごいなと思いました。つらい時にコメントするのは正直言って大変なのに」
深いスランプの最中、当時16歳のアマチュアだった石川にプロ意識の高さを学んだ。もちろん女子オープンの会場で声をかけたことがあるとはこの時は知るよしもない。
そんな2人に昨年末の青木功紫綬褒章受章記念パーティーで初めて直接話をする機会が訪れた。控室で緊張しながら「はじめまして」とあいさつを交わし、石川が「実ははじめましてじゃないんですよ」と切り出すと、ぎごちなかった空気は少しずつほぐれていったという。
互いに尊敬しあうふたりが日本ゴルフ界を牽引する。
宮里がエビアン・マスターズで悲願の米ツアー初優勝を飾ると、石川はまるでわがことのように喜んだ。
「1人のプロゴルファーとして尊敬しているので素晴らしいことだと思います。宮里さんはいつも堂々としていて、ふてくされている表情を見たことがない。そういうところがすごい。アメリカに行くと決めて4年間、信念を変えずにやってきた。人を惹きつける力があるし、あれだけプラス思考の方だとまた応援しようと思えますよね。ああいうプレー、態度を目指したいです」
それはおそらく宮里が石川に抱いている気持ちとも大差はないだろう。夢にまっすぐに挑む素直な心、決めたことを貫く意志の強さは両者に共通のものだからだ。
宮里は初優勝の翌週もメジャーの舞台で優勝争いを演じた。石川は英国の宮里に負けじと今季2勝目を挙げ、メジャー最終戦となる全米プロへと弾みをつけた。
日本のゴルフ界を牽引する両輪となった石川と宮里。マスターズ制覇と全米女子オープン優勝。これからも互いの存在に敬意を払い、励みとしながら、それぞれの夢の地平を切り開こうとしている。