セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
セリエAに挑むレアルの秘蔵っ子。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byYutaka/AFLO SPORT
posted2004/08/21 00:00
かつて、これほどまでにイタリアで期待されたスペイン人選手がいただろうか? ハビエル・ポルティージョ。移籍市場が解禁になるたびにイタリア紙を騒がせてきたレアル・マドリーの秘蔵っ子が、ついにセリエAにチャレンジすることになった。敬遠していたイタリア・サッカー界入りを決意したのは、レアルの控えに甘んじていた彼に「チャレンジ精神」が芽生えたせいだろうし、その強力な武器である左足が堅守を定評とするイタリア・リーグで通用することを証明するためでもあろう。
世界中が注目するスペイン人若手FWのフィオレンティーナ入りに、イタリア人記者たちが今回ばかりは期待を大にし、地元記者にいたっては、フィオレンティーナ再建のための中心選手になると手放しに喜んだ。
そもそもセリエAでは、スペイン・リーグの出身者は不発に終わる傾向にある。FWロナウド、FWリバウド、MFメンディエタ、MFレドンド、MFグアルディオラといった、近年のスペイン・サッカー界で歴史を刻んだ勇者たちは、軒並み真価を発揮できず、マスコミの痛烈な批判に悲痛な叫び声をあげてきたものだった。
イタリアのピッチ状態が良くない、戦術が複雑過ぎると、彼らなりの弁解はあっただろう。しかしワールドクラスの選手がこれほどまでにセリエAで結果を出せなかったのは、単なる偶然ではないだろう。
レアル・マドリーの人気沸騰もあり、全世界がスペイン・サッカーを称賛する中、イタリアだけは、スペインからの来客たちがセリエAで実績を挙げらなかったことで、それを評価しない傾向にある。ポルティージョも先達が歩んだ苦い過去をいずれ経験することになるだろうという陰口もあるが、22歳にして「あのレアル」で将来が保証されていたタレントだけに、イタリア国民は新しい可能性を感じてもいる。
そしてポルティージョは、移籍後10日目にして「ポルティ・ゴール」をたたき出した。様々な角度から、「黄金の左足」で弾丸シュートを相手ネットに突き刺した。そのプレーぶりは、欧州選手権の覇者であるギリシャ代表FWブリザスの度肝を抜いた。
「僕が強豪相手にもドリブルでディフェンダーを抜き去るプレーを披露するためには、まずは環境に慣れること。いま必要なのは時間だけだ」
チームに合流してから日も浅いというのにいきなり3ゴールを挙げたポルティージョは、歓喜する報道陣を前に憎いほど冷静に語った。
ルーキーは自ずと「学ぶ」という謙虚な言葉を繰り返すものだが、ポルティージョに限っては「慣れる」を連発し、「真価を発揮するためには時間を与えて欲しい」と、不足しているのは「時間」だけであることを強調する。
「チャンスを生かして徹底的にゴールを狙う。得点を挙げるために僕は生まれてきた」
レアル・マドリーのユースで550得点を挙げた実績が、セリエAでもゴールを量産できるという自信に繋がっているのは納得できるが、ルーキーでここまで言い切ったのは彼が最初かもしれない。
「最強のライバルが揃う世界で、自慢の左足を試してみろ」と、かつての同僚FWラウルにハッパをかけられて乗り込んできたセリエAの舞台。過去、イタリアで失敗を重ねてきたスペイン・リーグ出身者だが、今シーズンこそはセリエAに新たな歴史を刻むかもしれない。