セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
あの男の負傷でアズーリ大ピンチ。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2007/08/31 00:00
「そんなに(ユニフォームが)欲しければ、お前にやるよ」
「(ユニフォームより)お前の卑しい姉さんのほうがいい」
W杯ドイツ大会決勝で、ジダンから頭突きを食らったマテラッツィが初めて明かしたジダンとの会話である。9月上旬に出版されるマテラッツィの自叙伝に綴られた「頭突き」の経緯を、一足早くイタリアのマスコミが紹介した。発言に関しては、人種差別、宗教がらみなど数多くの憶測が飛び交ったが、明かされた内容は、少なくとも欧州では「よくあること」であった。
大会から1年を経たいまでも、両者は和解していない。それどころか、頭突き事件は両国の代表選手に多大な影響を及ぼした。インテルに所属するフランス人のMFビエラは「(食事の際には)マテラッツィと同席したくない」とチームメイトに対して敵対心を示し、今夏バルセロナに移籍したFWアンリがセリエA入りを断念したのも、この頭突き事件が要因のひとつと言われている。2週間前になるが、フランス代表のドメネク監督がアズーリを非難したことを受けて、リッピ元イタリア代表監督は、「ジダンがいかなる暴言を受けたとしても頭突きは正当化されない」と言い切った。2006年ドイツでの夏の興奮はあっという間に過ぎ去ったものの、フランスとイタリアはいまだに「古傷」の痛みに悩まされている。
例年ならこの時期、リーグ開幕で盛り上がるが、イタリア人はリーグ戦の話題を棚上げし、9月8日に予定されているEURO予選、フランス戦に注目している。
ところが、フランス戦への実戦練習を兼ねたハンガリー代表との試合で、アズーリはまさかの3失点という大失態を演じた。それだけではない。アクシデントが、敗戦のショックにさらに追い討ちをかけた。この試合中に、マテラッツィが選手生命にも影響を及ぼす右太ももの血管破裂という大けがに見舞われたのである。ACミランのDFネスタが代表引退を表明した直後に、大事な戦力のマテラッツィまで失った現状は、因縁対決に向けて躍起になっているイタリア代表に暗い影を落とした。
ドナドニ監督は「技量より体力」と若手選手の選考へと方向を転換。打開策を図っているが、このままではフランスに勝てる確率は残念ながら低い。
アズーリの戦力ダウンが不安視される中、今シーズン、解説者として某ペイTV局と契約したリッピ氏が、もしイタリアサッカー協会から監督復帰を依頼されたら、TV局との契約を破棄できるオプションを申し出たというニュースが飛び出した。
フランスを封じられるのはもはやリッピしかないのか?
9月8日のフランス戦でリッピ氏が指揮を執ることはないだろうが、マテラッツィを欠き、また、ドナドニ監督がイタリアの命運と自らの進退を若手に託したことでサッカー協会があたふたしているのは事実である。
決戦まであと10日ほど。セリエAは開幕したものの、イタリア人が贔屓のクラブより、アズーリのニュースにプライオリティを置くという珍事はいまだ続いている。