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森祇晶+王貞治=秋山幸二監督?
外野手出身監督は成功するのか。 

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田端到

田端到Itaru Tabata

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2009/07/21 12:45

森祇晶+王貞治=秋山幸二監督? 外野手出身監督は成功するのか。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

継投策は既に有名だが、それ以外の秋山采配の特徴とは?

 秋山ホークスは交流戦に優勝、パ・リーグのペナントレースでも現在、日本ハムと首位争いを演じている。秋山監督の采配にはどんな特徴があるのか。攝津、ファルケンボーグらを中心とした継投策に関しては、十分に語られている感があるので、ここではそれ以外のことについて、最近の試合から、注目すべき采配を3つ拾ってみた。

(1) 2点ビハインドの局面での送りバント

 秋山采配で目につくのは、送りバントの多用だ。7月19日終了時点で犠打80は、日本ハムと並んでリーグトップ。なかでも、2点以上ビハインドの場面での送りバントが珍しくない。

 7月17日のロッテ戦でも、7回表、2点リードされた局面の無死一塁で、田上に送りバントさせるシーンがあった。試合はすでに終盤、1点取ってもまだ追いつかない。打者は一発長打のある田上。それでも送りバントで走者を進め、まず1点を取りに行く。

 秋山監督が就任当初から掲げる「1点を取りに行く攻撃、1点を守る野球」を地で行く戦い方だ。

(2) 2点リードの局面でのスクイズ

 また、7月18日のロッテ戦では、9回表に2点勝ち越し、7-5とリードした後、チーム最高打率の打者・長谷川勇也にスクイズをさせて3点目の勝ち越し点をもぎ取った。

 9回2点のリードでも気を緩めず、いやらしくダメ押しの3点目を狙う。かつて秋山が在籍した森祇晶ライオンズを彷彿とさせる、点の取り方である。

(3) 交流戦明けの準開幕試合で、藤岡好明の先発起用

 6月26日、交流戦明けのペナント再開試合では、各球団が先発投手にエースを立ててきた。日本ハムはダルビッシュ、西武は涌井、楽天は田中、ロッテは小林宏之、オリックスは金子。しかしソフトバンクの先発は藤岡だった。この日は西武戦で、相手のエース涌井に藤岡をぶつけて、自軍のエース杉内俊哉は翌日に回した。

 さらに7月15日、日本ハムとの首位攻防3連戦の大事な試合にも、ダルビッシュ先発には藤岡をぶつけた。エースにエースをぶつけず、言葉は悪いが、負け覚悟試合(勝てば儲けものの試合)をつくるローテーションの組み方。これもまた森野球が得意とした戦術だ。

“スモール”と“ビッグ”の狭間で揺れるホークス。

 これらの采配から見えてくるものは何か。「西武の黄金時代を築いた森野球の影響が色濃い」と言ってしまえば話は簡単なのかも知れないし、同様の指摘はたびたび耳にする。しかしそれだけでは何かしっくりこない。

 1点にこだわる野球は、緻密な守備や走塁の能力を背景に成り立つものだ。そう考えると、主軸に、オーティズ、松中、小久保、多村と並ぶ現在の打線は、破壊力満点で迫力十分だが、お世辞にも、守備や走塁の上手なメンバーではない。

 事実、走塁ミスは非常に多く、7月20日の楽天戦でも、1死満塁から小久保が右中間へ落ちる打球を放ちながら、1点しか入らないという手痛いミスもあった。

 長距離打者をずらりと並べる打線は、前任の王貞治監督が好み、そこから引き継がれた資産だ。王監督のめざした野球をひとことで言うなら「細かいことは気にせず、自由に打て、豪快に打ち勝て!」というビッグベースボールである。秋山監督は、「1点にこだわる野球」を掲げながら、この王野球の良さも取り込もうとしているのかもしれない。

 捕手出身である森の緻密な野球と、内野手出身である王の思い切りのいい野球。一見、相反する2つの野球を絶妙にブレンドし、秋山ホークスは頂点を目指している。

 外野手出身の監督は本当に成功しないのか、そんな説は空論なのか。スーパー外野手だった秋山監督が、この見えない壁に挑む。

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