野球善哉BACK NUMBER
山口鉄也、松本哲也らは成功したが、
育成枠にはまだ改善の余地がある!?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/12/09 13:30
育成枠から支配下登録された15人中9人がすぐ一軍へ。
山口がそうだったように、彼らは当初の趣旨にあったように「じっくり育てて二軍で活躍できるレベルになった」として支配下登録されたのではない。一軍の戦力として前から目をつけられていて、二軍に枠が無かっただけの選手なのだ。
事実山口は1年目のシーズン、イースタンリーグで防御率1点台を残したが、支配下登録枠に空きがないという理由で、支配下登録が翌年4月にまでずれ込んでいる。そして、同月にいきなり一軍昇格も果たしている。実はこういうケースでの昇格選手は意外と多く、育成枠から支配下登録された選手の15人中9人が支配下登録後、まもなく一軍の試合に出場している。
阪神の野原祐也が典型的な例である。今年の開幕から育成枠1位の選手として二軍戦で常時試合に出場し大きな戦力になっていたのだが、なかなか支配下登録にはならなかった。ところが、登録リミットの7月末、突如支配下登録される。そして、9月には一軍に登録され、スタメン出場まで果たした。
本来、二軍レベルにまで育ったら支配下登録されるというものであったはずが、いつしか一軍の戦力になるまで支配下登録されなくなったのである。
ここに育成選手制度の問題点があるような気がしてならない。
「育成」と言いながら猶予期間が3年しかないのは厳しすぎ?
もうひとつ難しい問題もある。
規約によると育成選手は3年の契約期間内で支配下登録を締結できなければ、自由契約選手となることが決められている。
再契約はもちろん可能で、今年、ソフトバンクの山田大樹が再契約を勝ち取っているのだが、3年の契約期間内で、と決められているところに疑問を感じてしまう。
新人の育成選手というのはドラフトで支配下選手として選択されなかった選手である。言い換えれば、支配下のドラフトで選ばれた選手より、実力が劣ると判断されているわけだ。新入団の選手が一軍に定着するまで、大卒では2、3年、高校卒だと4、5年かかるというのが常である。
それにもかかわらず、レベルがそれほど高くないと判断された育成枠出身の選手に実質的に3年間で一軍の戦力になれ、というのは酷すぎる話ではないだろうか? この3年以内に結果を残さなければいけないという事実は、まだ10代、もしくは20代前半で人生を歩き出したばかりの選手にとって過酷な条件であるのは間違いない。勿論、プロなのだから厳しいのはしょうがない……という考えも理解しての意見である。
育成枠は、夢を追う若い選手と球団のどちらに有利なのか?
現時点で育成枠を活用し、成功しているのは巨人だけといっていい。巨人にしてもその成功裏にあるものは、来シーズンの育成枠を含む選手登録を84人も抱え育成していけるだけの資金面・環境面の充実があるからだ。
全球団が巨人ほど大量の育成枠選手を抱えることができるとは到底思えない。
ただ若い世代の選手達は育成枠であれ「プロに入りたい」と、入団を望んでくる傾向にはある。だからこそ、たとえ育成枠で多くの選手を抱えるにしても、彼ら若い選手の一度しかない人生が使い捨てにならないよう、より慎重に扱ってほしいと切に願っているだけである。
山口や松本の成功の陰で、育成選手制度に光が当たってきたが、まだまだ課題は山積だ。