セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
ユベントスの重大な危機を
招いたのは誰だ?
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byGetty Images
posted2009/05/16 06:00
5月3日、本拠地オリンピックスタジアムに渦巻く怒号のようなブーイングの嵐に、ユベントスのラニエリ監督は首を横に振り続けた。レッチェに土壇場で同点にされ痛恨のドロー。3月21日のローマ戦以来白星なし。リーグ5試合(5月9日付)でユベントスが手にした勝ち点はわずか4、失点数は11と、らしくない成績はゼブラ軍団が負のスパイレルに陥っていることを象徴した。
「ラニエリが戦犯」
ピッチ外では監督批判が連日のごとく飛び交い、非常事態に追い込まれたユベントスに、監督交代案が浮上した。
最終節までは同監督に指揮を執らせることもできる。しかし、改善の兆しが見られないことを苦にした首脳陣は早い時点で次期監督探しに乗り出した。「ユベントスを餌にすれば獲物も寄って来る」。
ユベントスの経営幹部たちに、他のチームも冷たい視線を……。
ところが、最有力候補であったフィオレンティーナの現監督プランデッリ氏には早々に拒否され、ローマのスパレッティ監督に白羽の矢を立ててはみたものの、同監督と複数年契約を交わすセンシ会長がスパレッティの来季続投を明言するなどユベントスの指揮官狩りは思いのほか難航した。昇格を決めたバリの奮闘を評価して元ユベントス選手のコンテ(現在バリ監督)とジェノアのガスパリーニ監督にも触手を伸ばしたものの、他クラブのオーナーもユベントスに手厳しい。
岐路に立たされ危機感はピークに達する一方で、クラブは来季の新戦力となるブラジル代表のジエゴ獲得、カンナバロの古巣帰還を発表。幹部の動向は監督交代にこだわるあまりの奇行とも思えてしまう。
ユベントスの幹部が、嫌な流れが続いていることでラニエリ監督を更迭しようとナタをふるおうとしているけれど、ラニエリ監督を戦犯扱いするのは不甲斐ない。私見を述べると、ライバルのインテルに比べるとユベントスは巨大戦力を擁したとはいいきれず、選手編成や今季のチームつくりもラニエリ監督の要望どおりに進められたとは言い難い。リーグ優勝を逃したのもなるべくしてなった結果だと思える。
むしろラニエリ采配のおかげで貧弱な戦力で戦えたのでは?
数多くの主力選手がケガでチームを長期離脱する最悪な環境下に置かれながら盤石の強さをみせることができたのはラニエリ采配、すなわち攻撃陣がディフェンスへの、ベテランが若手への全面バックアップ態勢のお陰ではないか。これによって守備の中枢を欠いた布陣であっても、攻守のリズムが狂うことは最小限に抑えられた。イレブン間に芽生えた揺るぎない信頼感によって不十分であった戦力をも着実に上積みしていったと思われる。
残念なのは、主力選手が戦列に復帰した途端、「調和」が崩れたことだった。「レギュラー組」の中には本職ではないポジション以外につくことを拒否する選手も出始める。それでも運動量があればスタミナの不安を補うこともできたが、コンディション面での調整が利かず、そのため成績に結びつかなかった。
「ラニエリが戦犯」の一件でユベントスの選手たちにラニエリ監督への尊敬の念が生まれる。
背水の陣で臨んだ10日のミラン戦では、戦い方より勝ち方に執着。最終ラインを高くしてプレスをかけるミランに対して、長めのボール、またはカウンターで攻める。スペースを作り出して好機を得たのはむしろユベントスだった。決戦は1-1のドローに終わったが、ラニエリ監督のスタイルであるチームスポーツ精神を貫いた充実感は選手たちにも広がっていた。不振の打開の重責は監督だけでなく、“ユベントスにある”のだから。