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審判の判定の難しさ。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byTamon Matsuzono

posted2005/09/20 00:00

審判の判定の難しさ。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 サッカーの審判はらくだなと思うことがある。どんな判定をしても、選手やコーチに殴られるというようなことがないからだ。

 野球はちがう。最近でこそ少なくなったが、かつては不利な判定を下そうものなら、そのチームの誰かがすぐさま抗議に走ってきて、その審判の胸ぐらをつかむくらいならまだいいほうで、突き飛ばしたり、こずいたり、暴力沙汰のないシーズンはないほどだったのである。

 もっともひどかったのは、1982年の大洋ー阪神戦の7回表に起きた事件で、走者3塁で阪神の選手が打ったサードフライを大洋の三塁手がグラブに当てて落としたのを、三塁球審がファウルと判定した。すると、阪神の島野育夫と柴田猛の2コーチが飛んできて三塁球審と、止めに入った球審を殴り、それでもおさまらずにレフトのほうに逃げた三塁球審を追いかけてフェンスぎわに突き倒し、うずくまる塁審を蹴りつけたのである。この一部始終が実況中継中のテレビに映し出された。

 むろん、これはあまりにひどかったので、横浜地検が傷害罪などで略式起訴し、横浜簡裁から2コーチに罰金5万円の略式命令が出された。ぼくはテレビを見ながら、なすすべもなく殴り蹴られている審判ばかりでなく、その家族もこれを見ているだろうにと思って、何ともやりきれない気持ちになったものだ。

 すくなくとも、サッカーではそういうひどいことは起こらない。判定に不満だからといって、いちいち審判を殴っていたのでは試合にならないから、それが自然のことなのだが、その一方で、サッカーの審判はその絶対性をいいことに、あまりにも安易に笛を吹きすぎるのではないかとも思うのである。とくに、プレミアリーグなどと比較すると、それがよく分かる。

 プレミアルーグの審判は、サッカーは肉弾戦であるという揺るぎない自信を持っているのではないかと思うほど、すこしぐらいの接触では笛を吹かないし、ファウルに対しても、それが明らかに故意のものではないかぎりイエローカードを出さない。しかし、Jリーグでは、ルーズボールを競り合った場面でもどちらかが倒れれば笛が吹かれるし、当たりどころが悪ければ故意でなくてもイエローカードが出され、両チームで7枚だの8枚だのになることも珍しくない。それに素直に従わなければ、たちまち感情的になる。ある意味では、審判天国といっていい。

 「システムなんか関係ない。選手一人一人が1対1で負けなければ試合にも負けない」

 ワールドカップ2次予選のバーレーン戦の前に、そういってシステム論議に終止符を打ったのは中田英寿だったが、それまでそういう発想をする選手が日本にいなかったのも、それと関係があるだろう。審判がやたらに笛を吹けば、選手は萎縮し、心理的に肉弾戦を避けるようになる。

 われわれは、これまで日本代表の選手たちが肉弾戦をいとわない外国代表の選手たちに球ぎわでの闘いに敗れ、やられてはならないところでゴールを割られるのを数限りなく見てきた。それも以上のようなことと無関係ではないだろう。

 今回は、ワールドカップアジア予選プレーオフの第1戦、ウズベキスタンとバーレーン戦で日本人の審判が判定ミスをして、試合やり直しになったことについて書こうと思っていたが、べつの話になってしまった。

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