北京をつかめ 女子バレーボールBACK NUMBER
Vol.2 佐野優子 守護神がフランスでつかんだもの
text by
宮崎恵理Eri Miyazaki
photograph byToshiya Kondo
posted2007/08/14 00:00
北京オリンピックを1年後に控えた全日本。大砲としての栗原恵が攻撃面におけるチームの大きな進化であるならば、全日本を底から支えているのは、間違いなくリベロの佐野優子だろう。
4年前、産声を上げたばかりの柳本ジャパンでのワールドカップを経験しながら、アテネオリンピック直前に代表から外れた経緯がある。その後、フランス・カンヌRCに単身渡り、2年間武者修行を積んで日本に戻ったのは、1年前のこと。久光製薬に籍を移し、ベストリベロ賞を獲得する活躍で、チームのVリーグ優勝に貢献した。
久光製薬での活躍を鑑みれば、今年、満を持しての全日本入りである。
4年ぶりの日本代表復帰。佐野が、ワールドグランプリでその実力を証明した。
昨年の同大会などでは、例えば日本は木村沙織がサーブレシーブで徹底的に狙われ、そのままくずれるというパターンが顕著であった。チームは「Aキャッチ(セッターに正確に返球されるサーブレシーブ)さえ上がれば、日本らしい攻撃ができるのに……」と、唇を噛む場面が多かった。しかし、今年、キャプテンの竹下が言う。
「今は、私自身、Bキャッチでのトスワークの精度を上げる必要がある」
つまり、すでに、ある程度Aキャッチはコンスタントに上がってきているという手応えを感じているのだ。だからこそ、サーブレシーブが乱れた際のセットアップにも、Aキャッチ同様のクォリティを自分に課すのである。
「佐野のサーブレシーブは上がってくるコースも、球質も明らかに4年前とは違う。トータルで安定しており、自分がどっしり構えていられるという安心感があります」
攻撃を組み立てる司令塔の竹下は、佐野に絶大な信頼を寄せている。
佐野のサーブレシーブは、ドライブのかかった強烈なジャンプサーブであれ、難しい変化球であれ、上がった瞬間に、ボールの回転が止まる。球威を殺し、竹下にとってトスしやすいチャンスボールに変えてしまうのである。
「海外の強豪選手たちの、パワーのあるサーブやスパイクは、手だけで受けたのでは、コントロールできない。大柄な選手と違って私は、全身を使ってレシーブしないとダメ。それは、小学生の頃からたたきこまれてきたものです。フランスに渡ってからは、さらに遠い範囲のボールでもきちんとセッターに返すために、上半身も強化してブレずに安定したレシーブが上げられるように練習を積んできました」
フランスでの2年間。日々、雨あられのようにたたき込まれる外国人選手たちのサーブやスパイクの、スピードやパワーの微妙な違いを、目と腕とで佐野は全身にデータを蓄積してきた。それが、現在の全日本に生きる。
今回のワールドグランプリで対戦する相手としてもっとも楽しみにしていたという、ブラジル戦。日本は0−3の完敗を喫したが、前後左右に揺さぶりをかけるブラジルの正確なサーブに対し、佐野は1本もミスすることなく、サーブレシーブ成功率83.33%という精度の高さで竹下へとつなぎ続けた。
「佐野は、フランスでの滞在で自分は技術一つで勝負するんだというプロフェッショナルとしての高い自覚を得たのだと思う。だから、プレーもメンタルも揺るがない。佐野が入ったことで、木村や高橋の負担が非常に軽くなった。昨年、帰国したばかりのタイミングで一度全日本入りを打診した時に、“今はまだ時期尚早。まずはVリーグでのプレーを見てください”と言われました。それだけ、自信があったのだと思う」
とは、柳本監督の弁。
今秋開催されるワールドカップから、熾烈な北京への切符争奪戦がスタートする。そして、北京オリンピックへ。佐野は、全日本のチーム力を飛躍させる原動力になる。