プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ノムさん退任にみるプロの厳しさ。
球団経営にもっと危機管理意識を!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/11/09 10:30
最終戦となったCS第4戦の試合後、いつも以上の報道陣に囲まれる野村監督
感動のフィナーレだった。
札幌ドームで行なわれたパ・リーグのクライマックス・シリーズ第2ステージ。4勝1敗で日本ハムが日本シリーズ進出を決めた試合後のグラウンドは、勝った日本ハムへの祝福ではなく、敗れた楽天の野村克也監督の退任セレモニーのような形になってしまった。
楽天ナインだけではない。ヤクルト時代の教え子の日本ハム・稲葉篤紀外野手、吉井理人投手コーチらも混じって両軍選手による胴上げ。スタンドから湧き上がる野村コールの中で、老監督は野球人生の幕を降ろした。
「球団首脳へのボヤきは功労金のため」という噂まで流れた。
最後はテレビのワイドショーも参戦して「ノムさん、可愛そう……」「もっとボヤきを!」と異常な盛り上がりとなった野村監督の退任騒動。だが、実際のところは世間に伝えられるような美談では語りつくせないドロドロの退任劇だった。
早々に“解任”を決めている球団に対して、マスコミをつかって揺さぶりをかけた野村監督。実は早くから横浜に“売り込み”をかけるなど、シーズン中から次の就職活動もしており退任は織り込み済みだったと見られる。それでは最後の騒動の狙いは何だったのか? 「留任」ではなく「功労金」だったのでは、というウワサがまことしやかに流れた。
その狙い通りだったのか。厳しい球団批判をしていたノムさんが、突然、上機嫌になった。三木谷会長との会談で年俸1億円といわれる名誉監督就任が決定、しかも席上「何年契約?」と直談判して、3年契約を結ぶことになったのだから笑いが止まらなかった。
監督退任はうまくいったが子飼いのコーチたちは就職浪人に。
そしてその陰では……。長男の克則バッテリーコーチが早々と巨人への再就職が決まったのとは裏腹に、監督子飼いといわれた橋上秀樹ヘッドコーチや池山隆寛打撃コーチ、松井優典2軍監督らは、次の就職先も決まらないままに球団からの解雇通告を受けた。
労働争議で“ボス交”という言葉がある。
経営者と組合トップが裏交渉をして双方の利益優先による妥協を計ることだ。野村監督の退任劇を見て、思わずこの言葉を思い出した。
そこには仁義はない。“ボス交”で泣くのは下で働く組合員……。楽天の現場スタッフとして監督に尽くしてきたコーチたちだというわけだった。