MLB Column from USABACK NUMBER

MLBの選手組合vs司法省、
薬剤汚染リストを巡る戦い。 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

PROFILE

photograph byWire Image

posted2009/09/03 11:30

MLBの選手組合vs司法省、薬剤汚染リストを巡る戦い。<Number Web> photograph by Wire Image

メディアに名前がリークされた一人、サミー・ソーサ。'07年にレンジャーズでプレーして以降、所属チームがなく、今年6月に事実上の引退を表明。薬物疑惑に関しては「自分はいつでも野球に対して愛情と責任を持っていた」と語っている

 いま、MLBの薬剤汚染問題に関連して、選手組合と司法省との間の法的係争が、連邦最高裁に持ち込まれようとしているので、説明しよう。

司法省vs選手組合、裁判の帰結は?

 ことの発端は、バリー・ボンズらが関わったバルコ社事件。同社によるスポーツ選手への筋肉増強剤供与容疑を捜査していた司法省が、2004年4月に、MLBの薬剤検査結果を押収したことにあった。

 捜査当局が押収した検査結果とは、2003年に、MLB機構が調査目的で実施したもの。組合との取り決めで「陽性率が5%を超えたら、翌2004年から罰則を伴う検査を導入する」ことになっていたのだが、「陽性選手の名は公開しない」ことが実施の条件だった。薬剤を常用していた選手にしてみれば、罰則を受けたり名前が公表されたりする心配をしなくてよいはずの検査だったのである。

 ところが、破棄されるはずだった検査結果が司法省に押収されたことで状況は一変。組合は「捜査令状の押収対象はバルコ社事件に関わった選手10人だけだったのに、陽性反応を示した全選手104人の検査結果を押収したのは『行き過ぎ』捜査で違法」と、司法省を訴えた。ここまで、一審は組合、二審は司法省、そして8月26日に裁定が下された第三審(連邦巡回控訴審)は組合が勝訴、という経過を辿ってきたが、今回の裁定に対して、司法省が連邦最高裁に上告するかどうかが注目されているのである。

選手組合を悩ませる、検査陽性リストの流出。

 しかし、組合にとって裁判の帰結以上に頭が痛い問題は、長期化する過程で、汚染選手の名がさみだれ式にメディアにリークされるようになったことである。リークしているのは、「訴訟に関わり、検査結果にアクセスすることができた複数の弁護士」とされているが、これまで陽性反応を示したと報じられた選手は、

*アレックス・ロドリゲス

*サミー・ソーサ

*マニー・ラミレス

*デイビッド・オーティース

の4人である。

 4人に共通するのは、

(1)薬剤入手はドミニカ共和国ルートと考えられる

(2)2007年にジョージ・ミッチェル元上院議員がMLBにおける薬剤汚染問題について報告した「ミッチェル報告」の汚染選手90人に入っていなかった

(3)スーパースターである

の3点。

スーパースターの薬物禍はこれで打ち止め?

 現在、最大の関心事は、「今後も、汚染選手名のリークが延々と続くのかどうか」という点にあるが、私は「リークはそれほど長くは続かない」と考えている。

 なぜなら、ミッチェル報告と2003年の検査陽性リストの間にはかなりの重複があるはずで、押収リストに単独で記載されている選手数はそれほど多くないと考えられるからである。実際、ここまで名前がリークされた4選手がすべて「ドミニカ共和国ルート」に限られているのも、ミッチェル報告に同ルート関連の記載がほとんどなかったことと関連していると見てよいのである。

 さらに、「ニュース・バリュー」という観点から見たとき、上述の(2)、(3)は特に重要である。というのも、すでにミッチェル報告に汚染選手として掲載されていたり、誰も名前を知らないような控え選手であったりした場合、たとえその名がリークされたとしても、ニュースとして報じる価値は限りなく「ゼロ」に近いからである。

現段階ではアジア出身選手の名は聞かないが……。

 陽性反応を示した選手達は、リストが押収された時点で組合から検査結果を通知されたとされているが、彼らは、いま「いつか自分の名前がリークされるのではないか」と、冷や汗をタラタラ流しながら心配しているのだろうか。もし、そうだとしても、名前がリークされるかどうかは「スター選手であるかどうか」にかかっているのだから、スターでない限り心配する必要はないだろう。

 もっとも、仮に日・韓・台出身選手の名が押収リストに含まれていた場合、「これまで報じられてこなかったアジア・ルートの薬剤入手経路の存在を示唆する」という意味で「ニュース・バリュー」があるので、スター選手であるなしにかかわらず、枕を高くして眠ることはできないだろうが……。

#サミー・ソーサ
#アレックス・ロドリゲス
#マニー・ラミレス
#デイビッド・オルティス

MLBの前後の記事

ページトップ