カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:ロッテルダム「引きの強さに翳りの兆し」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2005/05/09 00:00
現場に行くと好試合を見られることが多い僕。
ただ最近足を運んだ試合は散々だった。
風邪は引くし、小野伸二は出ないし、リバプールは裏切るし。
このコラムで僕は以前、自分の引きの強さを吹聴したことがある。思いがけず、好試合の現場に立ち会った回数は誰よりも多いと調子に乗って書いた記憶があるが、その分だけ失敗も経験している。泣きたくなる試合にも多々出合っていることは事実。
先日のフェイエノールト対ヘーレンフェーン戦もそんな試合だった。試合前に配布されたスタメン表を見て唖然。ONOの名前が、サブにも入っていないことに、そこで初めて気がついた。聞けば前日練習で、足を痛めたという話。小野はフェイエノールトのゲームキャプテン。欧州組の中では、試合に出場する可能性が最も高い選手だ。それがこの有様では、スポーツライターは朱鷺や雷鳥といった、特別天然記念物を追い求める奇特な職業の人たちと何ら変わらなくなる。
試合がまた絵に描いたような凡戦だった。リーグ戦4位対5位。そこそこまともな試合になるのではと予想したこちらが甘かった。前日10℃台だったロッテルダムの気温は、当日には28℃にまで跳ね上がり、そのカンカン照りの日差しが、勝っても負けても何にも影響しないフェイエノールトのモチベーションを下げた、とは好意的すぎる見方か。記者席にも、真夏を思わせる日差しは容赦なく照りつけた。珍しく風邪を引き、体調不良の身にはなおさら堪える90分間だった。
何を隠そう、日本を発つ直前に観戦したJ2の試合でも、僕は空振りを喫していた。たまには、甲府の山奥で寂しそうにしている小倉隆史選手の様子でも眺めに行くかと、わざわざ現地に足を運んでみれば、彼はスタメンどころかベンチからも外れ、スタンド観戦の一員に甘んじていた。
風邪もそこで引いたようだ。試合前、甲府の露天温泉で一風呂浴びたところ、どうやら湯冷めしたようで、成田発の飛行機の中では12時間終始ブルブル。到着したミラノで病院に駆け込み、ようやくギリギリセーフの状態まで回復した次第である。
踏んだり蹴ったりはまだ続く。愛しのリバプールから、突然「お断り」のファックスが届いてしまったのだ。チャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグ、対チェルシー戦の話だ。「記者席満員につき今回はご勘弁下さい」。ある程度予想はしていたが、改めてそう言われるとガックリする。悪いけど僕は、今季のリバプールを、割とシーズンの早い段階から、「これは行ける!CLのダークホースだ!」と声高にプッシュしていた数少ない日本人の一人だ。欧州人を含めても、ザラにはいない存在だと思うが、ともかく、だから今季、何度もアンフィールドロードには足を運んだ。これまでは、全てセーフだった。それが肝心の準決勝でアウトとは……。ならばスタンド観戦は、とダフ屋料金をチェックすれば、13万8千円〜16万8千円の間と、お話にならない金額が返ってきた。
よって、イングランド滞在を辞め、水曜日に行われるPSV対ミラン戦に備え、オランダにやってきた。そしたら、小野選手は怪我で休みだったというわけ。
愚痴ついでについて言わせてもらえば、小野選手の線の細さには、頼りなさを感じる。日本代表で最も外せない選手を1人挙げよと言われれば彼になる。欧州組の中ではダントツの出世頭ながら、そこで弾けている様子はない。タフでは全くない。PSVのパクチソンとは対照的な姿を描いている。
パクチソンはCLの舞台で弾けまくっている。評価はいま欧州で急上昇中。完全な売り手市場だ。これから僕はそのミラン戦を観戦するために、アイントホーフェンに向かう。初戦はミラノの0−2。だが、このままPSVが静かに引き下がるとは思えない。負けて元々とガンガン攻めてくるだろう。好試合必至?再び、引きの強い僕が蘇ることに、僕は密かに期待を寄せている。