濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
青木真也vs.川尻達也は「検討中」。
大晦日対決が即決しなかった理由。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2009/10/12 08:00
川尻は青木に「2人だったらDREAMで世界最高峰ができると思う」と対戦を求めるも、青木は「最高峰は僕なんで……、検討します」とスルリとかわした
毎年、この季節になると格闘技界の焦点は大晦日の話題に絞られてくる。誰が出場するのか。どんなカードが組まれるのか。9月から11月にかけて行なわれるK-1やDREAMの大会は(かつてはPRIDEも)、大晦日のビッグイベントに向けての予告編として位置づけられることが多い。
10月6日の『DREAM.11』横浜アリーナ大会でも、大晦日のマッチメイクに大きく影響を及ぼす試合が組まれていた。川尻達也vsメルカ・バラクーダと、ヨアキム・ハンセンに青木真也が挑むライト級タイトルマッチである。
川尻は5月にJ.Z.カルバンに勝利し、タイトル挑戦権を事実上、手にしている。バラクーダとのタイトル前哨戦に勝てば、大晦日の『Dynamite!!』でハンセンvs青木の勝者と対戦することは確定的だ。
ファンの多くが望んでいたのは、青木との日本人対決だろう。青木と川尻は、ともにPRIDEで活躍した選手。PRIDE活動休止後には試合に飢えながら雌伏の時を過ごし、『やれんのか! 大晦日! 2007』を経て旧PRIDEスタッフが運営を手がけるDREAMを主戦場に選んだ。彼らは日本の総合格闘技界を代表するトップファイターであり、ライバルであり、そして同志でもあるのだ。青木vs川尻戦が決まれば、PRIDEなき後の格闘技新時代を象徴する試合、ファンの感情移入を最も誘う試合になることは間違いない。
予告編は青木のジョークで断ち切られた。
先に大晦日への名乗りを挙げたのは、川尻だった。第6試合に登場した川尻は、バラクーダにマウントパンチの連打を浴びせ、1ラウンド3分48秒で勝利。試合後はマイクを握ると「大晦日のタイトルマッチ、決まりですよね」と主催者にアピールしてみせた。K-1ルールで魔裟斗に挑み、壮絶に散ってから2カ月半。再起戦のプレッシャーをはねのけた川尻の快勝は、予告編としての効果を見事に発揮したと言えるだろう。
そして第8試合、川尻が見つめる前で、青木がDREAMライト級の頂点に立つ。過去1勝1敗、昨年のライト級GP決勝ではレフェリーストップに追い込まれたハンセンの打撃を寝技で封じ込め、腕ひしぎ十字固めを極(き)めたのだ。じっくりとハンセンの体力を削いでいく戦法にはブーイングも起きたが、試合終了まで残り4秒というところでハンセンをタップさせたのは青木の底力にほかならない。7月のビトー“シャオリン”ヒベイロ戦ではムエタイ式のミドルキックを軸に勝利していることを合わせて考えると、ファイトスタイルの幅の広さにも感服させられる。
いよいよ、予告編はクライマックスを迎えた。青木がベルトを腰に巻くのを待ちかねたかのように、川尻が再びマイクを握る。「大晦日、俺の挑戦、受けてくれるよね」。対する青木は……「検討します」。
これは昨年、川尻から対戦要求された宇野薫が発した台詞と一字一句同じもの。青木は予告編のクライマックスを、あろうことかジョークで断ち切ってしまったのだ。