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谷川貞治 「次の目標は“新党”結成です」
text by
松井孝夫Takao Matsui
photograph byToshiya Kondo
posted2008/01/17 15:28
──危機感からの大連立だったわけですね。
「PRIDEが潰れて、我々が恐れたことは、プロレスやキックボクシングのように細かく団体が分裂していくことです。少数野党が増えてしまうと、ジャンルの衰退を招くことになりますから」
──大連立ではなく、吸収して統合した方が早いとは考えませんでしたか。
「一方の団体がなくなったからといって、所属していた選手たちを引き抜いて、一緒にそこのファンもついてくると思ったら、そんなに単純なものではないですよ。とくにPRIDEに関しては、世界一の熱いファンが集まっていますからね」
──確かに熱狂的なファンが多いです。
「今回の大晦日の勝者は、さいたまスーパーアリーナのお客さんですよ」
──『やれんのか!』のファンの勝利……!?
「そうです。あの熱が会場を包み込み、選手に大きなパワーを与えたと思っています。そういう熱を保つためには、自分たちのいいように吸収してはダメですよ。UFCみたいに何でもかんでも自分のところに持っていってしまうよりも、僕らはその熱を大切にしたいと思っています」
──たしかに、PRIDEの消滅で格闘技全体のパワーが落ちた印象はありましたが、熱を感じました。
「それこそが、我々の目的です」
──ホンマン、秋山選手を『やれんのか!』に出したことは驚きました。結果的に、二人が『やれんのか!』の中心にいたようですが。
「二人を思い切って出したわけでもなく、僕のなかでは一括りのものですから、『Dynamite!!』と『やれんのか!』は。格闘技大連立ですからね。例えば、向こうにボブ・サップを出しても活きないですからね。戦略的には間違っていなかったと思います」
──谷川プロデューサーは、HERO'S代表の秋山選手が三崎選手に勝ってほしいという感情はなかったのでしょうか。
「秋山選手の所属がFEGだからとか、HERO'Sだからといった小さいこだわりは、ないですね。でも個人的な感情は抜きにしても、秋山選手が勝った方がよかったですよ。勝てば、田村選手など対戦相手はまだまだいますし、展開が広がっていく。結果的に、ジャンルとして面白くなれば僕はいいですよ。青木選手がカルバン選手に勝った方がいいし、秋山選手はまだまだ勝ち続けた方がよかった」
──勝ち負けよりも活かし方であると。
「僕の立場は、そうです。ヒョードルにホンマンが勝ったら、多くの人が驚くことでしょう。KID選手が負けたら、60kgには強い選手がいっぱいいそうだなという感じになりますよね。HIROYA選手が負けることで、高校生にもまだ強い選手がいるじゃないか、ということになる。船木選手が桜庭選手に勝ったら、船木選手も秋山選手との対戦とか、そういった戦線に絡んできたでしょう。そういう面白い展開をいつも期待しているんです」
──では最後に、今年の谷川プロデューサーの野望をお聞きしたいのですが。
「野望……。野望なんてないですね。野望ということ自体が子供っぽい感じがします。個人の利益とか気持ちとか、どうだっていいと思うしね。とにかくファンが喜ぶものを作りたい。それだけですよ。プロデューサーになって独りよがりのことをやろうとする人がいますが、それでイベントや団体がダメになる。天才がいて、その人が作るイベント、団体っていうやり方もあるかもしれないけど、もうこの世界では通用しません。昔みたいにスター選手も一個人では無理だし、スターが団体を引っ張るのも無理。一人だけの野望ではダメになってしまいます。野望っていうのは、そういうことを思っている自体が小さいし、うまくいかないなという感じがしますよ」