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プロレスリング・ノア 三沢なき方舟。 ~三沢光晴追悼大会レポート~
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph byTabashi Shirasawa
posted2009/10/06 11:30
超満員となった日本武道館。過去、三沢と名勝負を繰り広げた天龍や高山など縁ある選手たちが大会を盛り上げた。メインの潮崎対齋藤では、三沢の技を駆使した潮崎が勝利した
リング上で事故死したプロレスラー、三沢光晴の追悼興行が、9月27日、日本武道館で行なわれた。超満員札止めとなり、急遽立ち見席も設けられるほどの盛況を見せた。
かつてのライバルがはなむけの激闘を三沢に捧げた。
この日のセミファイナルでは、全日本プロレスの武藤敬司と、三沢なき後のノアを引き継いだ田上明が社長同士でタッグを結成。小橋建太・高山善廣組と対戦する、ビッグネーム揃い踏みの豪華なカードが組まれた。
田上が武藤の必殺技であるシャイニングウィザードを繰り出せば、結局は未遂に終わるも小橋がムーンサルトプレスを試みる。いつも以上の熱戦に、1万7000人の観客は興奮の足踏みで呼応する。最後は小橋がラリアットで田上を沈めたが、三沢の全盛期である四天王時代の熱い空気がよみがえったかのような、郷愁めいた雰囲気に武道館が包まれた。
“命を奪った男”と“未来を託された男”の運命の対決。
セミが“これまでのノア”を総括する試合だとすれば、メインイベントは“これからのノア”の試金石であった。三沢のラストマッチとなった2009年6月13日の広島大会で、齋藤彰俊は対戦相手として、潮崎豪はパートナーとしてリングに上がっていた。因縁浅からぬふたりが、潮崎の持つGHCのベルトを賭けて対決したのである。
ちなみにこの試合が、潮崎の初防衛戦。三沢追悼興行のメインという大一番を任された、キャリア5年の若き王者にかかる重圧は相当なものだったに違いない。実際、序盤の動きは普段の試合に比べると、硬さが目に付いた。
「もしかしたら三沢社長に呼ばれるかもしれないと思って、身を清める意味で新調した」という、白いロングタイツでリングに上がった齋藤は、試合開始10分すぎに“必殺”のバックドロップを放つ。いつも以上に鋭い角度でマットに叩きつけられた潮崎は、たまらずリング下にエスケープした。
三沢の魂を宿した潮崎が見せたエースの決意。
齋藤に無理矢理リングに引きずりあげられた潮崎は、コーナーに振られる途中でヒザから崩れ落ちてダウンする。しかし、ここで諦めるようではエース失格である。
エルボースイシーダ、フェイスロック、エルボー、エメラルドフロウジョン……。三沢の得意技で反撃に出ると、観客が床を踏みならし、重低音が武道館にこだまする。最後は潮崎のオリジナル技であるゴーフラッシャーからの片エビ固めで3カウントを奪い、GHCベルトの初防衛に成功した。
試合に敗れた齋藤はマイクを握り、「潮崎おめでとう。三沢社長の後を継いで、プロレス界を引っ張っていってくれ」とエールを送る。対する潮崎は「これからのノアをよろしくお願いします」と超満員の客席に向かってベルトを誇示し、エースの決意を表明した。