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超新星・山田直輝が照らすニッポンの未来。
text by
小齋秀樹Hideki Kosai
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/06/12 11:00
フィンケ監督のもとで花開いた才能。
シーズンを無冠で終えたクラブは改革を謳い、'09年、新監督としてドイツからフォルカー・フィンケを招聘。新しいチームで、山田は準備期間の合宿中に負傷したものの、第2節で途中出場、1試合間を置いて、3月25日、ナビスコカップでのサンフレッチェ広島戦でプロ入り初先発を果たし、以後スターティングイレブンに名を連ね続けた。
1年間で山田が劇的な成長を遂げたわけではない。変わったのはむしろチームの方だ。個人の技量やイマジネーションに頼ることの多いサッカーから脱却し、ショートパスを多用して、複数の選手の連携で崩す「コンビネーション・サッカー」を監督は標榜した。そして、そのサッカーは山田直輝のプレースタイルにぴたりと嵌(はま)るものだった。
「彼は運動量が豊富で、技術的にも優れています。コンビネーション・サッカーをするのには最適な選手だと言えると思います」
監督のフィンケは試合後の記者会見で、山田をそう評したほどだ。
エコでクレバーな走りが豊富な運動量につながる。
5月21日、岡田武史日本代表監督は、山田の選考理由を「(ケガで外れた)田中達也のように、まず彼が動き出すことで次の選手が動き出す、みんなにスイッチを入れるような選手」と説明したが、頷けるところはある。中盤の高い位置から引いてクサビを受ける動きなどは、非常に似ている。達也も山田も空いたスペースを見つけて入り込み、ボールを受ける。彼らは、体格に恵まれたポストプレーヤーのようにDFを背中と腕で押さえてボールを受けたりはしない。スペースに入る前に一旦逆へと動き、マーカーの追跡を振り払ってからボールを呼び込む。慌てて寄せてきたマーカーが追いつく頃には、シンプルに味方へと落とし、また別の場所へ向かって走り出している。当然、相手守備には綻びが生まれ、そこを他の選手が衝くことが可能になる。
達也のようなドリブルやシュート力はないが、運動量では山田が上回るだろう。積極的に顔を出し、少ないタッチ数で味方を使ってふたたび走る。
「動き回ってボールに絡むこと」
それが、山田自身が語る特徴でもある。
それも、ただ闇雲に走り回るのではなく、クレバーさに裏打ちされた走りだ。相手の急所を衝こうとするマクロな視点と同時に、ボールホルダーの身体の向きやボールと足の位置といったミクロな視点にも立ち、「常にボールを出せる場所に入ることを意識して」いる。だから、彼のフリーランニングは、いわゆる“ムダ走り”に終わらないことが多い。
「最初から最後まで走りきるのが好きです。僕が動くことでチームに何か与えられたら、と思ってやってます」